離職防止の取り組み ── 施策を増やす前に、辞める理由を在職中に拾う

離職防止の取り組みというと、福利厚生の充実、人事評価制度の見直し、1on1の導入といった施策や対策の一覧から選びたくなります。けれども、施策を増やしても離職率が下がらず、従業員の定着につながらない会社は少なくありません。多くの場合、原因は施策の数ではなく、社員が辞める本当の理由を、辞める前に把握できていないことにあります。

サーベイや面談で「すべて本音で答えている」社員は 10.8% にとどまり、本音を控える理由で最も多いのは「言っても何も変わらないから」(35.0%)でした。会社に届いている不満は、実際の不満のごく一部です。同じ調査では、本音を出し切っていない社員が 57.4% と半数を超えました。

この記事では、離職防止とは何か、離職率の現状、社員が辞める原因と兆候の特徴、効果的な施策、取り組みが的外れになる理由、進め方までを、厚生労働省の最新統計と自社の実態調査(2025年12月・正社員463名)をもとに解説します。

出所:株式会社yellba「組織サーベイ実態・意識調査」(2025年12月/全国の正社員 n=463/インターネット調査)。統計は出典ごとに記載。

離職防止とは

離職防止とは、従業員が会社を辞める原因を減らし、長く働き続けられる状態をつくるための取り組みです。英語では「リテンション(Retention)」と呼ばれ、人材の定着を目的とした施策や対策の全体を指します。

離職防止は「辞めそうな人を引き止めること」ではありません。ここが最初に押さえておきたい重要な点です。退職を申し出た社員を説得しても、気持ちが戻ることはほとんどありません。本来の離職防止は、辞めたいと思う理由そのものを職場から減らすことです。そのため、職場環境、評価や待遇、人間関係、仕事のやりがいや働きがい、キャリアの見通しまで、職場全体が対象になります。離職を防ぐ対策を講じることは、今いる従業員が働きやすい会社をつくることと同じ意味を持ちます。

離職率の現状

厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」(2026年8月公表)によると、直近となる2025年の離職率は 13.7% で、前年から0.5ポイント低下しました。入職率は14.7%で、入職が離職を上回っています。全体では大きく悪化しているわけではなく、改善が進んでいるようにも見えます。

一方で、若手層の早期離職は高い水準が続いています。厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(2025年10月公表)では、2022年3月に卒業して就職した人の 3年以内の離職率は、大学卒で33.8%、高校卒で37.9% でした。新卒で入社した社員の3人に1人近くが、3年以内に辞めている計算です。若年層の定着は、今後も多くの企業にとって大きな課題であり続けるでしょう。

離職率の数字は年によって動きます。他社の記事で引用されている数字を見るときは、何年の調査なのかを必ず確認してください。古い数字を自社の目標や比較の基準に使うと、判断を誤ります。

いま離職防止が重要視されている理由

人手不足が続くなかで、1人が辞めたときの損失は以前より大きくなっています。欠員を埋めるには、求人広告や紹介手数料などの採用コストに加え、面接や教育にかかる工数が必要です。既存の従業員がその穴を埋めることになり、現場の負担は増加します。すぐに採用できるとも限らず、欠員の期間が長引くこともあります。

近年は、人材の流動性が高まり、転職が当たり前の時代になったことも背景にあります。働く人の価値観も多様化し、給与だけでなく働き方や成長の機会を重視する人が増えています。かつては「不満はあるが辞めるほどではない」状態の社員が多くいました。いまは不満を抱えた従業員ほど、早い段階で外の選択肢を探します。人員に余裕のない中小企業では、1人の退職が業績に直接響くことも少なくありません。離職防止は、不満が退職という行動に変わる前に手を打ち、人材を維持するための取り組みになっています。

離職を放置すると起こるリスク

優秀な人材から流出する

社外で評価されやすい力を持つ人ほど、転職先を見つけるのも早くなります。求職者として転職市場に出れば、すぐに他社から声がかかるからです。職場に不満が積み重なったとき、最初に辞めていくのは、会社が最も残ってほしい優秀な人材であることが少なくありません。

残った社員の負担が増し、離職が連鎖する

欠員が出ると、その業務は周囲の同僚やチームに回ります。残業時間や休日出勤が増え、負担が重くなった社員がまた辞めていく。離職が次の離職を招く悪循環に陥ると、組織力が落ち、職場の立て直しには長い時間がかかります。業務のノウハウが特定の人に偏っている職場ほど、影響は深刻です。

採用・教育コストが損失になる

採用にかけた費用と、入社後の研修やOJTに投じた時間は、社員が辞めた時点で回収できなくなります。顧客との関係を担っていた社員が辞めれば、取引に影響が出ることもあります。育成に時間のかかる職種ほど、この損失は大きくなります。

企業イメージが低下する

離職が続く会社は、口コミサイトやSNSで評判が広がり、採用活動にも影響します。調査では、心理的安全性が低い職場の社員のうち、SNSや口コミサイトにネガティブな投稿をする意向がある人は 45.5% で、心理的安全性が高い職場(14.9%)の約3倍でした。

社員が離職する主な原因

労働条件・待遇への不満

給与や賞与、昇給の水準、長時間労働、休日の取りにくさは、離職理由の上位に挙がり続けています。業界の水準と比べて待遇が見劣りすると、従業員は転職を考え始めます。厚生労働省の雇用動向調査でも、個人的理由による離職の中で「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」「給料等収入が少なかった」は、上位に挙がることが多い理由です。

人間関係・上司との関係

上司や同僚との関係は、日々のストレスに直結します。上司に相談しても取り合ってもらえない、職場で孤立している、ハラスメントがある。パワハラやセクハラといったハラスメントは、本人だけでなく周囲の従業員のメンタルにも影響します。職場の雰囲気の悪さや、相互理解の不足による人間関係の悪さは、待遇がよくても人を辞めさせます。

仕事内容・やりがいへの不満

仕事が単調でやりがいや価値を感じられない、自分の強みを生かせない配属になっている、入社前に聞いていた仕事内容や働く環境の像と違う。仕事そのものへの不満は、配属や採用時のミスマッチから生まれることが多くあります。

評価への不満

評価基準が不透明で、何をすれば評価されるのかが分からない。上司によって評価が変わり、公平性に欠ける。評価への不満は、給与の額そのものより、決まり方への納得感の欠如から生まれます。業務の成果が評価や報酬にどうつながるのかを具体的に示し、納得感の向上につなげることが、不満の解消には欠かせません。

キャリア・将来への不安

この会社にいても成長できない、キャリアパスが描けない、会社の将来の方向性や企業文化に共感できない。将来への不安は、目の前の不満が小さくても、転職を考えるきっかけになります。

会社に伝えられる理由と、本当の理由はずれる

注意したいのは、社員が退職時に会社へ伝える理由が、本当の理由とは限らないことです。「キャリアアップしたい」「家庭の事情で」といった理由は、角が立たず引き止められにくいから選ばれます。退職の手続きを円満に進めたいという感情も働きます。上司との関係や評価への不満といった本音は、辞めると決めた時点ではもう語られません。詳しくは「退職理由の本音と建前」で解説しています。

離職につながる兆候・サイン

離職を考え始めた従業員には、行動や態度の変化が表れる傾向があります。主な特徴は次のとおりです。

  • 会議やミーティングでの発言が減る
  • 同僚とのコミュニケーションや社内の交流が減る
  • 仕事を定時ちょうどに切り上げるようになる
  • 新しい仕事や役割に手を挙げなくなる
  • 有給休暇をまとめて、あるいは不規則に取るようになる
  • 1on1や面談で「特に話すことはありません」と言うようになる

なかでも見逃されやすいのが、不満や意見を言わなくなることです。不満を口にしているうちは、まだ会社に期待が残っています。期待しなくなった社員は、不満を言うのをやめます。表面上は穏やかで、職場の雰囲気も悪くないため、上司は「問題ない」と判断しがちです。このように黙って辞めていく状態については「静かな退職」で詳しく扱っています。

兆候は、気づいた時点ですでに手遅れのことも少なくありません。上司がサインに気づけるよう、日頃から会話の機会を増やしておくことも大切ですが、兆候を探すより、兆候が出る前の不満や要望を日常的に拾える状態をつくるほうが、離職防止の対策としては確実です。

離職防止に効果的な施策

施策は、離職の原因に対応させて選びます。具体策を一覧で知ることより、自社に合うものを見極めることのほうが重要です。次の表は、主な原因と、それに対応する離職防止の施策・対策の組み合わせです。自社の課題に焦点を当て、当てはまるものから検討してください。

原因対応する施策の例
労働条件・働き方長時間労働の是正、フレックスタイム制・テレワークの導入、短時間勤務、有給休暇の取得促進
評価・待遇人事評価の評価基準の明確化、評価結果のフィードバック、賞与・昇給の仕組みの見直し、表彰制度
人間関係・上司1on1・定期面談、管理職のマネジメント研修、メンター制度、ハラスメント対策
仕事内容・やりがい配属の見直し、ジョブ・ローテーション、社内公募制度
キャリア・将来キャリア面談、キャリアプランの共有、研修・自己啓発の支援
採用・入社後求人広告や面接での正確な情報提供、オンボーディングの強化
声が届かないアンケート・サーベイ、相談窓口、意見を反映する仕組み、退職者ヒアリング

労働条件・働き方を見直す

長時間労働が続いている職場では、他の施策より先に取り組むべきです。まず業務を棚卸しし、会議の削減やツールの活用による業務効率化で残業を減らします。人事のリソースが限られている場合も、まず残業の多い部署から着手すると進めやすくなります。ノー残業デーの設定は、仕事量そのものが減らなければ持ち帰り残業を生むだけなので、業務の見直しとセットで進めます。業務の属人化を解消し、仕事を分担できる体制を整えることも欠かせません。

フレックスタイム制やリモートワーク、出社と在宅を組み合わせたハイブリッド勤務、時短勤務など、個人の事情に合わせて従業員が働き方を選べる環境を柔軟に整えることも有効です。育児や介護と仕事を両立しやすくなり、ライフステージの変化による離職を防げます。育児休業・介護休業を取りやすい雰囲気づくりや、職場復帰後のフォローも欠かせません。

評価制度と待遇の納得感を高める

人事評価で大切なのは、点数の高さより納得感です。評価の質を高めるには、評価者が部下の仕事をよく見ていることが前提になります。評価基準を言語化して従業員に周知し、評価の結果だけでなく理由を上司から伝えます。上司によって評価が変わらないよう、評価者研修や、同僚や部下の視点も加えた多面評価を取り入れる会社もあります。評価の考え方を幹部と管理職がそろえ、多角的な視点で運用できる体制が整うことが、公平な評価の前提です。

給与や賞与の水準を上げることも一つの方法ですが、コストがかかるうえ、他社との比較で上には上がいます。待遇の見直しは、評価の透明性とあわせて進めるほうが効果が続きます。成果を称える表彰や、日常的な感謝を伝える仕組みも、お金をかけずにできる施策です。一人ひとりの貢献を尊重する文化が根づくと、従業員の帰属意識も高まります。

上司との関係とコミュニケーションを整える

従業員の定着に最も影響するのは、直属の上司との関係だといわれます。良好な関係を築けるかどうかは、上司の日々の関わり方で決まります。1on1や定期面談で、業務の進捗だけでなく、不安や悩み、キャリアの希望を聞く場を設けます。部下に話してもらうには、上司が評価者ではなく相談相手として関わる意識が欠かせません。ただし面談は、聞いた話に何も返さなければ、かえって信頼関係を損ないます。部下の本音を引き出せるかどうかは、聞き方の工夫より、話したことに上司が応えてきたかどうかで決まります。話を聞いたら、できることとできないことを伝えるところまでがセットです。面談の内容は担当の上司だけで抱え込まず、必要に応じて人事に報告できる仕組みにしておくと、組織として対応できます。1on1の進め方は「1on1の効果的なやり方」にまとめています。

部署を横断したプロジェクトや社内イベントでの交流、社内SNS・チャットの活用、チームビルディングなど、同僚同士がお互いを知り、関係を深める取り組みも、孤立を防ぎ帰属意識を高めます。職場のコミュニケーションの活性化は、どの施策の効果も底上げし、従業員が仕事に前向きな気持ちを向けるきっかけにもなります。管理職自身のマネジメントスキルを高める階層別の研修も、離職防止の土台になります。

キャリアの見通しと成長の機会をつくる

キャリアパスが描けない会社からは、成長意欲の高い社員から辞めていきます。キャリア面談で一人ひとりの志向を確認し、社内公募制度やジョブ・ローテーションで、社内で新たな仕事に挑戦できる機会を増やします。社員が自由に手を挙げられる仕組みを整えることで、主体的なキャリアづくりを推奨できます。研修やeラーニングの提供、資格取得の費用補助や自己啓発の奨励など、従業員が学ぶ機会とスキルを習得できる環境も整えます。従業員の主体性を引き出すには、本人が自分で選べる余地を残すことが大切です。

昇進の基準や、どの職種でどんな経験を積めるのか、社内でどう活躍できるのかが明確になっていれば、従業員は社外に答えを探しに行く必要がなくなります。入社3年目や昇格のタイミングなど、キャリアの節目ごとに上司と将来を振り返る場を設けるのも効果的です。

採用のミスマッチを減らし、入社後を支える

入社前の期待と入社後の実態のギャップは、早期離職の大きな要因です。求人広告や面接では、仕事の大変さや職場の課題も含めて正確に伝えます。入社後の姿を具体的にイメージできる情報を与えることが、ミスマッチを防ぐ近道です。良いことだけを伝えて採用しても、入社後に辞められれば採用コストは無駄になります。

入社後は、オンボーディングで受け入れの体制を整えます。入社直後は不安感が強く、最初の数か月の経験がその後の定着を大きく左右します。メンター制度やブラザー・シスター制度で、上司以外に相談できる先輩をつけ、仕事と生活の両面からサポートするのも効果的です。新入社員や中途採用者が孤立しないよう、入社後3か月ほどは定期的に面談を行い、つまずきを早めに把握します。

社員の声を拾い、反映する仕組みをつくる

ここまでの施策は、どれも「自社の従業員が何に不満を持ち、どんなニーズを持っているか」が分かっていて初めて効果が出ます。そのために必要なのが、社員の声を日常的に集め、対応する仕組みです。

アンケートやエンゲージメントサーベイ、ストレスチェック、社内外の相談窓口などで、在職中の従業員の不満や要望を把握します。これらの仕組みは、従業員満足度やエンゲージメントの状態を定期的に可視化し、離職の芽を早めに見つける役割を担います。大切なのは、集めた声に何らかの形で応えることです。社員が積極的に声を上げるかどうかは、過去に声がどう扱われたかで決まります。集めるだけで何も変わらなければ、社員は次から本音を書かなくなります。サーベイを無駄にしない進め方は「エンゲージメントサーベイが無駄になる5つの理由」で解説しています。

離職防止の取り組みが的外れになる理由

施策を入れているのに離職が減らない。そうした会社の取り組みには、共通するずれがあります。

原因を確かめる前に施策を選んでいる

他社の成功事例や施策の一覧から「良さそうなもの」を選ぶと、自社の離職の原因と合わないことがあります。他社でうまくいった施策が、そのまま自社に適用できるとは限りません。評価への不満で人が辞めている会社が福利厚生を充実させても、離職は止まりません。施策の効果は、原因に合っているかどうかでほぼ決まります。離職の原因は一つではなく、複合的に絡み合っていることも多いため、思い込みで決めない姿勢が必要です。

退職者の話だけで原因を決めている

退職者へのヒアリングや、退職手続きの中で行うオフボーディング面談は、原因を知る手がかりになりますが、前述のとおり、辞めると決めた人が本音を話すとは限りません。退職面談で集まるのは、円満に辞めるための理由が中心です。それを集計して施策を決めると、本当の原因とは違うところに手を打つことになります。原因を知るなら、まだ辞めていない在職中の社員から聞く必要があります。

声を集めても、返していない

サーベイやアンケートを実施しても、結果が社員に共有されない、改善が見えない。こうした状態では、取り組み自体が社員の不信感を深めます。調査では、結果や改善状況が共有されていると感じる社員は 25.9% にとどまりました。また「声に誠実に対応されていない」と感じる社員では、会社を人に勧めない「批判者」が 95.2% に上ります。声を集めることは、返すことまで含めて初めて離職防止になります。

施策を入れて終わりにしている

施策は、導入した時点ではまだ何も変わっていません。効果を測らずに続けると、効いていない施策に時間と予算を使い続けることになります。逆に、効果を確かめないまま「意味がない」とやめてしまうこともあります。

組織診断サーベイ

在職中の本音から、離職の原因を特定する

EXギャップファインダーは、入社から退職までの15のプロセスと9つのカテゴリで、社員がどこでつまずき、何に不満を持っているのかを読み解く深層型の組織診断サーベイです。退職面談では聞けない理由を、辞める前に明らかにします。

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離職防止の進め方

離職防止は、次の順番で進めると、施策が的外れになりにくくなります。

1. 現状を数字で把握する

全社の離職率だけでなく、部署別・職種別・在籍年数別・年代別に離職の状況を分けて可視化します。退職者の人数だけでなく、全体に占める割合で比べると、規模の違う部署同士でも比較できます。「入社3年以内の若手が辞めている」「特定の部署に離職が集中している」など、どこで起きているかが分かれば、打つべき手も絞られます。

2. 在職中の社員から原因を明らかにする

サーベイやヒアリングで、在職中の従業員が何に不満を持ち、何を求めているのかを把握します。数字だけでは理由がわからないため、可能であれば自由記述や個別のヒアリングも組み合わせます。このとき、誰が回答を見るのか、何名以下の集団は集計しないのかを先に説明し、匿名性への不安を下げておきます。本音が出ない調査からは、本当の原因は見えてきません。回答が評価に使われる恐れがあると感じれば、従業員は当たり障りのない回答しかしなくなります。

3. 優先順位をつけ、小さく試す

原因が複数あるときは、影響の大きさと取り組みやすさで優先順位を定め、企業としてどのテーマから手をつけるかを決めます。いきなり全社に展開せず、離職が多い部署など一部で試し、効果を確かめてから広げると、失敗したときの損失も小さく済みます。小さく実践して得た学びを次の施策に生かすアプローチは、離職防止に限らず組織改善の基本です。

4. 効果を測り、社員に返す

離職率は結果が出るまでに時間がかかる遅れて動く指標です。施策の効果を正しく測定するには、離職率だけを追うのでは十分ではありません。そのため、エンゲージメントのスコアや、上司への相談のしやすさ、有給休暇の取得率など、先に動く指標もあわせて追います。エンゲージメントをどう離職防止につなげるかは「エンゲージメントと離職の関係」で解説しています。

指標の種類例見るタイミング
先に動く指標(先行指標)エンゲージメントスコア、相談のしやすさ、意見が反映された実感、残業時間施策の実施から数か月
遅れて動く指標(遅行指標)離職率、3年以内の定着率、退職理由の内訳半年〜1年

結果を共有する際は、それを受けて何を続け、何を変えるのかもあわせて従業員に伝えます。施策の効果が見えれば、取り組みへの理解も進み、現場の協力も得やすくなります。逆に結果を伏せると、次の調査で本音が集まらなくなる可能性があります。返すところまでを1回の取り組みとして回し続け、改善を継続することが、離職防止を一過性で終わらせないポイントです。

若手・新入社員の早期離職を防ぐには

入社3年以内の離職を防ぐには、入社前後のギャップを小さくすることと、相談できる相手をつくることが中心になります。

若手は不満があっても、自分から上司に言い出すことが少ない層です。入社前に描いていた働く姿と現実のギャップに悩んでいても、「まだ入社したばかりだから」「評価に響くかもしれない」と考え、問題を一人で抱えたまま、ある日突然退職を申し出ます。入社後1年ほどは、定期的な面談に加えて、評価に関係のない立場の先輩やメンターが話を聞く機会をつくり、つまずきを早めに把握します。若手の離職の予兆については「若手は、黙って辞める ── 若手の離職予兆とサイレント離職対策」でも解説しています。若手が辞める理由や時期別のフォローは「若手社員の離職防止 ── 辞める理由と効果的な対策」にまとめています。

育児・介護と仕事の両立による離職を防ぐには

育児や介護は、意欲のある社員でも働き続けることを難しくします。特に介護は、本人が職場に言い出さないまま一人で抱え込み、限界を迎えて退職に至るケースが少なくありません。

2025年4月に施行された改正育児・介護休業法では、介護に直面したことを申し出た社員への、両立支援制度の個別の周知と意向確認が事業主に義務づけられました。会社として両立支援の体制を整備し、対象となる従業員に適切に周知することに加え、社員が介護や育児の事情を早めに相談できる関係と、相談窓口を用意しておくことが、両立による離職を防ぐ第一歩です。法改正の内容や企業ができる対策は「介護離職の防止対策 ── 企業ができる取り組み」で詳しく解説しています。

離職防止で人事部門・管理職・経営が担う役割

経営人事部門管理職
主な役割離職防止を経営課題として位置づけ、方針と予算を決める離職の状況と原因を分析し、施策を設計・推進する日々のコミュニケーションで部下の不安や不満に気づき、対応する
よくある失敗人事部門に任せきりにする他社事例をそのまま導入する部下の離職を自分の評価の問題として抱え込む

離職防止は、人事部門だけでは進みません。人事は施策の設計と推進を担い、現場で部下と向き合う管理職と、方針と予算を決める経営が同じ方向を向いて初めて、施策が職場に根づきます。経営が離職防止の重要性を理解し、自らの言葉で発信することが、全社の取り組みを前に進めます。

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よくある質問(FAQ)

離職防止の取り組みは、まず何から始めればよいですか?

自社で離職がどこに集中しているかを、部署別・年代別・在籍年数別に把握することから始めます。全体像が見えないまま施策を選ぶと、効果の出ないものに時間をかけてしまいかねません。そのうえで、在職中の社員から不満や要望を聞き、原因を明らかにしてから施策を選びます。施策から選ぶと、自社の原因と合わないことがあります。

お金をかけずにできる離職防止策はありますか?

あります。評価の理由を丁寧に伝える、困ったときに相談できる先輩をつけてサポートする、1on1で不安や悩みを聞く、日常的に感謝や称賛を伝える、会議を減らして残業を削減する、といった取り組みは大きな費用をかけずに始められます。社員の声を聞き、それに応えることも、費用より姿勢が問われる施策です。

退職者へのヒアリングは意味がありますか?

参考にはなりますが、それだけで原因を決めるのは危険です。辞めると決めた社員は、円満に退職するために本当の理由を話さないことが多くあります。原因を知るには、在職中の社員から本音を聞ける仕組みが必要です。

離職率の目安はどれくらいですか?

厚生労働省「令和7年雇用動向調査」では、2025年の全体の離職率は13.7%でした。ただし業種や職種、企業規模によって大きく異なります。他社の平均と比べるより、自社の離職率の推移や、部署・年代ごとの差を見るほうが、取り組みの判断に役立ちます。

若手社員の離職を防ぐにはどうすればよいですか?

採用時に仕事の実態を正確に伝えてミスマッチを減らし、入社後はオンボーディングとメンター制度で相談できる相手をつくります。若手は不満を自分から言い出しにくいため、評価に関係のない場で話を聞く機会を設けることが効果的です。

1on1をしているのに社員が辞めるのはなぜですか?

1on1で聞いた話に何も応えていない場合、社員は「話しても変わらない」と感じて本音を話さなくなります。また、上司に言いにくい不満は1on1では出てきません。1on1に加えて、匿名で声を届けられる仕組みを用意することが有効です。

離職防止にサーベイは役立ちますか?

在職中の社員の不満や要望を把握する手段として役立ちます。ただし、結果を社員に返さなければ、回を重ねるごとに本音が集まらなくなります。何を判断するために実施するのかを決め、結果と対応を共有するところまで設計することが大切です。

離職防止の効果はどう測ればよいですか?

離職率は結果が出るまでに時間がかかるため、エンゲージメントのスコアや相談のしやすさ、残業時間など、先に動く指標とあわせて追います。施策の実施から数か月で先行指標を、半年から1年で離職率を確認します。

辞める理由を、辞める前に拾う

離職防止の施策は、どれも正しいものです。職場の信頼関係を醸成し、良好な環境を構築するための積極的な取り組みであることに変わりはありません。ただ、自社の社員がなぜ辞めるのかが分からないまま選んだ施策は、当たるかどうかが運次第になります。施策を増やす前に、在職中の従業員の声を拾い、原因を明らかにして、課題の解決を図ること。そして、集めた声に応え続けること。それが、遠回りに見えて最も確実な離職防止の取り組みであり、従業員が長く働き続けたいと思える会社の実現につながります。

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