離職防止アンケートとは、従業員の不満や悩み、退職につながる予兆を在職中に把握し、離職防止の施策につなげるための社内アンケートです。離職率の改善や人材の定着を目指す企業で、エンゲージメントサーベイや面談とあわせて活用されています。
一方で、アンケートを実施しても本音が集まらず、結果を施策に落とし込めないケースも少なくありません。この記事では、離職防止アンケートの目的と種類、そのまま使える質問項目の例、実施のポイント、結果の分析方法とアクションへのつなげ方を、全国の正社員463名への自社調査のデータとともに解説します。
出所:株式会社yellba「組織サーベイ実態・意識調査」(2025年12月/全国の正社員 n=463/インターネット調査)。
離職率の現状と、離職が企業に与える影響
厚生労働省「令和7年雇用動向調査」(2026年8月公表)によると、全体の離職率は13.7%でした。人手不足が続くなか、一人の離職は採用と教育のコストの増加、残った従業員の業務負荷とストレスの増大、生産性や組織のパフォーマンスの低下につながります。優秀な人材の流出は企業イメージにも影響し、採用活動を難しくします。
離職を防ぐリテンションの取り組みには、離職の要因を現状に即して把握することが不可欠です。その手段の一つが、離職防止アンケートです。
離職防止にアンケートは有効か
離職の理由は、退職を申し出た時点ではすでに固まっています。上司との面談だけでは、人間関係や評価への不満など、本人が口に出しにくい課題は見えにくくなります。匿名のアンケートは、こうした本音を全社で収集し、部署や属性ごとの傾向を客観的に可視化できる点で、離職防止に有効な手段です。
ただし、アンケートは実施するだけでは効果を生みません。自社調査では、サーベイや面談で「すべて本音で答えている」社員は 10.8% にとどまりました。本音を控える理由の第1位は「言っても何も変わらないから」(35.0%)です。設問の設計と、結果への対応の両方がそろって初めて、アンケートは離職の予兆を拾う仕組みになります。
離職防止アンケートの種類
| 種類 | 実施のタイミング | 把握できること | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 定期アンケート(従業員満足度調査・エンゲージメントサーベイ) | 年1〜2回 | 組織全体の課題、部署別の傾向 | 実施後に結果と対応を共有しないと形骸化する |
| パルスサーベイ | 月次・週次 | コンディションの変化、離職の予兆 | 設問を絞り、回答の負担を下げる |
| 入社後フォローアンケート | 入社1か月・3か月・1年など | 新入社員や若手のギャップや不安、早期離職のリスク | 回答に基づいて面談やフォローにつなげる |
| 退職時アンケート(エグジットサーベイ) | 退職の申し出後 | 退職理由、職場の課題 | 辞めると決めた人の回答は建前に寄りやすい |
退職時アンケートは、退職理由を定量的に分析できる一方、離職を防ぐには手遅れのタイミングです。離職防止の目的では、在職中のアンケートを主役に置き、退職時アンケートは原因の検証に使う組み合わせが有効です。退職理由の本音と建前については「退職理由の本音と建前」で解説しています。
離職防止アンケートの質問項目例
5段階(「とてもそう思う」〜「まったくそう思わない」)で回答する設問を中心に、領域ごとの質問例を紹介します。
業務内容・やりがい
- 現在の業務内容は、自分の能力やスキルを発揮できるものだ
- 仕事にやりがいを感じている
- 業務量は適切で、無理なく働けている
- 仕事を通じて成長を実感できている
- 自分の判断で、主体性を持って仕事を進められている
人間関係・上司
- 業務の悩みを、直属の上長やメンバーに報告・相談しやすい
- 上長は部下の意見に耳を傾け、的確な指導をしてくれる
- チームのメンバー同士で交流や助け合いがある
- 職場の同僚と良好なコミュニケーションが取れている
- 同僚や上長から感謝や承認を得られている
- 困ったときに助けを求められる人が社内にいる
評価・待遇
- 評価の制度と基準が明確で、納得できる
- 自分の成果が正当に評価されている
- 給与や待遇は、仕事の内容に見合っている
労働時間・ワーク・ライフ・バランス
- 労働時間や残業は適切な範囲に収まっている
- 休暇を取りやすい職場だ
- 仕事と私生活のバランスが取れている
- 心身ともに健康な状態で働けている
キャリア・将来
- この会社で将来のキャリアを描けている
- 研修や教育など、スキルを高める機会がある
- 3年後もこの会社で働いていると思う
会社への信頼
- 会社は社員の声に誠実に対応している
- 自分の意見や提案が、職場の改善につながっている
- 問題や異論を、安心して口にできる雰囲気がある
- この会社を、働く場として親しい友人に勧めたい
自由記述
- 職場で改善してほしいことがあれば教えてください
- 仕事を続けるうえで不安に感じていることがあれば教えてください
設問を一から作る場合は、領域ごとの質問例を60問まとめた「エンゲージメントサーベイの質問項目」も参考になります。
「会社への信頼」の設問が欠かせない理由
多くの離職防止アンケートは、業務や待遇、人間関係の満足度を中心に設計されています。しかし、退職の意識を左右するのは、待遇だけではありません。
| 職場の状態 | 12か月以内の退職検討 |
|---|---|
| 心理的安全性が低い | 38.6% |
| 心理的安全性が高い | 21.6% |
| マネジメントの不誠実・不透明さを挙げた層 | 38.1% |
心理的安全性が低い層の退職検討は、高い層の約1.8倍でした。会社が社員の声にどう応えているか、異論を口にできるかといった「信頼」の状態は、満足度の設問だけでは見えません。離職の予兆を拾うには、待遇や業務の満足度に加えて、会社への信頼を確かめる設問を必ず入れておくことが重要です。
離職防止アンケートを実施するポイント
実施の目的と結果の使い方を周知する
何のために実施し、結果をどう活用するのかを、実施前に従業員へ伝えます。目的が分からないアンケートには、回答者は当たり障りのない回答をします。
匿名性を確保し、扱いを明示する
誰が回答データを見られるのか、何名以下の集団は集計しないのか、自由記述をどう扱うのかを事前に示します。回答が人事評価に影響しないことも明確にします。
設問数と回答時間を示す
定期アンケートは30〜50問程度、パルスサーベイは10問以内が目安です。回答にかかる時間をあらかじめ示すと、回答率が上がります。
定期的に実施し、変化を追う
1回だけの実施では、課題の発見にとどまります。同じ設問で定期的に実施し、スコアの変化と施策の効果を確認します。
離職防止アンケートの進め方
| 段階 | やること |
|---|---|
| 1. 目的と指標を決める | 離職率、定着率、エンゲージメントのスコアなど、改善を測定する指標を決める |
| 2. 設問を設計する | 自社の課題に合わせて質問項目を選び、回答の負担を見積もる |
| 3. 実施と回答の促進 | 実施の目的と匿名性を周知し、回答期間を設ける |
| 4. 集計・分析 | 属性別に客観的なデータとして集計し、離職の予兆と要因をつかむ |
| 5. 施策の立案と実行 | 優先順位を決め、担当者と期限を設けて施策を講じる |
| 6. 結果の共有と効果測定 | 結果と対応を共有し、次回のアンケートで効果を測定する |
この改善サイクルを回し続けることで、アンケートは一度きりのイベントではなく、職場づくりと人材育成に役立てる仕組みになります。
アンケート結果の分析方法
属性別にデータを切り分ける
部署、職種、年代、勤続年数、役職などの属性ごとに集計し、スコアの低い層や、前回から大きく下がった層を見つけます。全社の平均だけでは、離職リスクの高い層は見えません。個人が特定されない単位で集計することも忘れずに確認します。
離職の予兆となるサインを事前に決める
分析を始める前に、どの回答を離職の予兆とみなすかを決めておきます。
| 予兆のサイン(例) | 考えられる状態 | 対応 |
|---|---|---|
| 「3年後もこの会社で働いている」が低い | 転職を検討し始めている | 上司・人事による早めの面談 |
| 「上司に相談しやすい」「意見に耳を傾けてくれる」が低い | 上司との関係が悪化している | 上司へのフィードバック、相談窓口の案内 |
| 「業務量は適切」「心身の健康」が低い | 業務負荷が限界に近い | 業務の再配分、労働時間の見直し |
| 「意見が改善につながっている」が低い | 会社への期待を失っている | 過去の声への対応状況を共有する |
自由記述から共通する言葉を拾う
自由記述は、数値では見えない不満や具体的な要望、離職の兆候を把握する手がかりになります。直近の回答と過去の回答を比べると、変化も見極めやすくなります。複数の回答者に共通する言葉やテーマを整理すると、優先して取り組むべき課題が見えてきます。
課題を見極め、優先順位をつける
すべての課題に同時に取り組むことはできません。離職との関係が強い項目、影響を受ける従業員が多い項目から優先順位をつけ、改善施策と担当者を決めます。調査結果を経営や現場の上司と共有し、施策に落とし込みます。
結果を離職防止の施策につなげる
| 見えた課題 | 施策の例 |
|---|---|
| 業務量・労働時間 | 業務の棚卸しと再配分、残業の多い部署の人員配置の見直し |
| 上長との関係 | 1on1の導入・見直し、管理職研修、メンター制度、直属の上長を通さない相談窓口 |
| 評価・待遇 | 評価基準の明確化と説明、評価面談のフィードバックの改善 |
| キャリア・成長 | キャリア面談、研修や異動の機会の提示 |
| 会社への信頼 | アンケート結果と対応方針の共有、社員の声を集めて返す仕組み |
施策を実行したら、次回のアンケートで効果を検証します。改善したこと、検討したが実施できなかったこととその理由を従業員に伝えることで、「回答が活きた」という実感が生まれ、次回以降の回答の精度も高まります。モチベーションの向上と定着に直結するのは、この繰り返しです。
アンケートが離職防止につながらない理由
自社調査では、サーベイに本音で答えていない、あるいは参加していない社員は合計 34.3% でした。また、サーベイの結果や改善状況が「十分に共有されている」と感じる社員は 2.8% にすぎません。
アンケートを実施しても結果が返ってこない経験が重なると、従業員は「答えても変わらない」と学び、回答は中立に寄ります。スコアが平穏に見えるまま、辞める予定の社員だけが増えていく状態です。離職防止アンケートで最も大切なのは、設問の良し悪しよりも、回答に会社が応え続ける姿勢です。
離職の予兆を、原因の構造まで特定する
EXギャップファインダーは、社員が辞める前に、職場のどこで不満や不信感が蓄積しているのかを原因の構造まで特定する深層型の組織診断サーベイです。部署や属性ごとに比較でき、月額のランニング費用はなく、必要なときに1回ごとに実施できます。
EXギャップファインダーを見るよくある質問(FAQ)
離職防止アンケートでは何を聞けばよいですか?
業務内容とやりがい、人間関係と上司、評価と待遇、労働時間とワーク・ライフ・バランス、キャリアと将来、会社への信頼の領域を中心に、自由記述を加えて設計します。
離職防止アンケートはどのくらいの頻度で実施すべきですか?
組織全体を把握する定期アンケートは年1〜2回、変化を追うパルスサーベイは月次が目安です。新入社員には入社1か月、3か月、1年などの節目で実施すると効果的です。
退職時アンケートだけでは不十分ですか?
退職時アンケートは退職理由の分析に役立ちますが、離職を防ぐには手遅れのタイミングです。また、辞めると決めた人の回答は建前に寄りやすいため、在職中のアンケートと組み合わせることが大切です。
アンケートで本音を集めるにはどうすればよいですか?
匿名性と回答の扱いを明示し、回答が評価に影響しないことを伝えます。そのうえで、過去の回答に会社がどう対応したかを共有することが、本音の回答につながります。
アンケート結果から離職の予兆をどう見つけますか?
「3年後もこの会社で働いている」「上司に相談しやすい」など、予兆とみなす回答をあらかじめ決めておき、属性別に集計して該当する層を把握します。
アンケートは自社で作るべきですか、ツールを使うべきですか?
自社で作るとコストを抑えられますが、設問設計と分析に専門性が必要です。継続して実施し、部署別の分析や原因の特定まで行うなら、サーベイツールや外部の診断サービスの活用も検討します。
アンケートは、声に応える仕組みとセットで
離職防止アンケートは、退職の予兆を在職中に拾うための有効な手段です。ただし、効果を生むのはアンケートそのものではなく、集めた声に応え、施策につなげ、その結果を従業員に返すことです。設問を整えると同時に、回答に応える体制を整えましょう。
