エンゲージメントと離職の関係 ── 全社平均ではなく、辞めてほしくない人のエンゲージメントを見る

離職防止の施策として、従業員エンゲージメントの向上に取り組む企業が増えています。エンゲージメントが高い従業員ほど離職しにくいことは、多くの調査で示されています。一方で、エンゲージメントサーベイを導入しても離職率が下がらない企業も少なくありません。

原因の多くは、施策の中身ではなく狙いの置き方にあります。全社平均のスコアを上げることと、辞めてほしくない人材の離職を防ぐことは、同じではありません。

この記事では、エンゲージメントと離職の関係、エンゲージメント向上が離職防止につながらない理由、離職を防ぐ施策、エンゲージメントの測定と分析の方法を、自社の実態調査(2025年12月・正社員463名)をもとに解説します。

出所:株式会社yellba「組織サーベイ実態・意識調査」(2025年12月/全国の正社員 n=463/インターネット調査)。統計は出典ごとに記載。

従業員エンゲージメントとは

仕事への熱意と、組織への愛着の二本柱

従業員エンゲージメント(Employee Engagement)とは、従業員が仕事や組織に対して自発的に貢献しようとする意欲や状態のことです。大きく二つの要素に分けられます。

  • ワークエンゲージメント:仕事に熱意を持ち、没頭している状態。バーンアウト(燃え尽き)の対極にある概念
  • 組織コミットメント:組織に愛着を持ち、この企業で働き続けたいと思う状態

仕事への熱意が高くても、組織への愛着が低ければ、従業員は離職します。離職防止を考えるときは、この二つを分けて把握することが大切です。

従業員満足度・モチベーションとの違い

従業員満足度は、給与や福利厚生、職場環境など、企業から提供されるものへの評価です。エンゲージメントは、従業員が自ら仕事や組織に関わろうとする度合いです。満足度が高くても、エンゲージメントが低い従業員はいます。

モチベーションは、仕事に向かう動機や意欲で、短い期間で変化しやすいものです。エンゲージメントは、仕事や組織との関係をより長く捉える指標です。違いは「従業員満足度調査とエンゲージメントサーベイの違い」でも解説しています。

エンゲージメントと離職の関係

エンゲージメントの低下は、離職とリファラルに表れる

エンゲージメントが低い状態が続くと、早期離職や離職率の上昇として表れます。反対に、エンゲージメントが高い従業員は、自社を知人に勧め、リファラル採用にもつながります。エンゲージメントは、人材の定着と採用の両方に影響する指標です。

調査データで見る、エンゲージメントと離職意向

自社の調査では、心理的安全性が低い職場の従業員のうち、12か月以内に退職を検討している人は 38.6% で、心理的安全性が高い職場の 21.6% の約1.8倍でした。口コミサイトやSNSへのネガティブな投稿意向も、低い職場では 45.5% と、高い職場の 14.9% の約3倍です。

また、企業が従業員の声に誠実に対応していないと感じている層では、自社を人に勧めない「批判者」が 95.2% を占めました。組織への信頼が下がると、離職意向とネガティブな評判が同時に高まります。

離職のコストとリスク

従業員が1人離職すると、採用コストや育成にかけた時間が失われ、引き継ぎで周囲の業務負担が増えます。中核人材の離職は、チームのパフォーマンス低下や、ノウハウの流出に直結する経営リスクです。エンゲージメント向上は、こうした損失を防ぎ、定着率を高めるための取り組みです。

エンゲージメント向上が離職防止につながらない理由

全社平均のスコアだけを追っている

多くの企業は、エンゲージメントサーベイの全社平均を目標に設定しています。しかし、平均スコアが改善しても、辞めてほしくない人材のエンゲージメントが低ければ、離職は防げません。平均値は、どの層のスコアが上がり、どの層が下がったのかを見えなくします。

原因を分析しないまま、施策を重ねている

従業員同士で感謝を伝えるサンクスカードの導入、組織の活性化を狙った社内イベント、福利厚生の拡充。こうした施策で一時的にスコアが上がっても、離職の原因が別にあれば、エンゲージメントは本質的には高まりません。課題の分析をせずに施策を重ねると、効く層と効かない層が混在するだけです。

サーベイに本音が集まっていない

自社の調査では、サーベイや面談で「すべて本音で答えている」従業員は 10.8% にとどまり、本音を控える理由の1位は「言っても何も変わらないから」(35.0%)でした。結果のフィードバックがないサーベイには、本音が集まりません。本音のないデータを分析しても、離職の原因は特定できません。詳しくは「エンゲージメントサーベイが無駄になる5つの理由」で解説しています。

誰のエンゲージメントを高めるのかを決める

辞めてほしくない人材を特定する

エンゲージメントを離職防止につなげるには、まず「誰のエンゲージメントを高めたいのか」を決めます。どんな人材に長く活躍してほしいのか、どんな人材の離職が経営に影響するのか。個人の能力や成果だけでなく、会社の方向性に照らして考えます。これは、企業の人事ポリシーそのものです。

全従業員のエンゲージメントを一律に高めようとすると、施策は総花的になります。辞めてほしくない人材を特定し、その層のエンゲージメントの状況を把握することから始めます。

層によって、効く施策は異なる

ワークエンゲージメントと組織コミットメントの高低で、従業員の状態は4つに分けられます。

状態仕事への熱意組織への愛着効きやすい施策
理想の状態高い高い役割の拡大、挑戦の機会
仕事はしたいが、組織にいる理由が薄い高い低い理念と仕事の接続、キャリアパス、評価・報酬
組織にはいたいが、仕事への熱意が低い低い高い業務内容の見直し、目標設定、成長支援
どちらも低い低い低い上司との対話、職場環境の改善

離職防止で特に注意したいのは、「仕事はしたいが、組織にいる理由が薄い」層です。意欲と能力が高く、企業が辞めてほしくない人材と重なりやすい一方、仕事への熱意が高いため、エンゲージメントスコアでは課題が見えにくい層です。

施策に良し悪しがあるのではなく、効く相手が違うのです。福利厚生や社内イベントは、待遇や人間関係を理由に組織に留まる層には効果があります。しかし、仕事や成長を理由に働く人材の定着には、別の施策が必要です。

平均を上げる施策が、コア人材の不満を生むこともある

全員が満足するように評価や報酬の差を小さくすると、成果を出している人材ほど「頑張っても報われない」と感じます。平均スコアが上がっても、コア人材の公正感とエンゲージメントは下がる。全社平均だけを追うことには、こうしたリスクがあります。

エンゲージメントを高めて離職を防ぐ施策

経営理念と業務をつなげる

企業の方向性と、従業員一人ひとりの業務がどうつながっているのかを伝えます。経営理念やビジョンを共有するだけでなく、本人の仕事に引きつけて説明することで、仕事の意味と組織への愛着が生まれます。

キャリアパスと成長の機会を示す

この組織で、次にどんな役割に挑戦でき、どんなスキルが身につくのかを示します。人材育成の計画、研修、新しい業務への挑戦の機会を用意し、上司や人事がその成長をサポートします。つまずいたときにフォローできる体制も欠かせません。

評価と報酬で成果に報いる

評価制度の基準と評価の理由を明確に伝え、本人が納得できる形で、成果に見合う報酬や処遇を用意します。成果を出しても報われない環境では、優秀な人材から離職していきます。

1on1で対話し、フィードバックを返す

上司と部下の1on1や面談を定期的に実施し、本人のモチベーションや不安、自身のキャリアへの希望を把握します。部下からの質問や発言を受け止める姿勢が、対話の質を高めます。業務の進捗だけでなく、本人の課題にも目を向け、フィードバックを返します。1on1の進め方は「1on1の効果的なやり方」で解説しています。

従業員の声を集め、改善に活用する

アンケートやサーベイで従業員の意見を集め、職場の課題を改善します。大切なのは、結果と具体的なアクションを従業員にフィードバックすることです。声が組織に届き、改善につながる経験が、組織への信頼とエンゲージメントを高めます。社内のコミュニケーションが活発になり、課題を言い出しやすい職場づくりにもつながります。

どこに原因があるのかを特定する

辞めてほしくない人材のエンゲージメントが低いと分かっても、それだけでは施策は決まりません。業務内容、上司との関係、評価制度、キャリアの見通し、職場環境のどこに原因があるのかによって、打つべき施策は変わります。

原因を特定するには、全社平均ではなく、属性ごとにエンゲージメントのデータを比較し、どの層がどこで課題を抱えているのかを分析します。入社から現在までのどの段階でギャップが生まれたのかを把握することも、離職の原因を特定する手がかりになります。

組織診断サーベイ

誰が、どこでつまずいているのかを特定する

EXギャップファインダーは、入社から退職までの15のプロセスと9つのカテゴリで、従業員がどこでつまずき、何に不満を持っているのかを分析する深層型の組織診断サーベイです。任意の属性軸でスコアを比較できるため、全社平均では見えない「辞めてほしくない人材」のエンゲージメントの状況と、離職の原因を明らかにできます。

EXギャップファインダーを見る

エンゲージメントの測定・分析の方法

方法内容活用のポイント
エンゲージメントサーベイ数十〜百問程度の設問で、エンゲージメントとその要因を測定する年1回〜半年に1回実施し、組織の課題と原因を分析する
パルスサーベイ数問の短いアンケートを高い頻度で実施するコンディションの変化を早く把握する
eNPS「この職場を親しい人に勧めたいか」を0〜10点で聞く組織への愛着の傾向をシンプルに追う
1on1・面談上司が部下と対話して状況を確認するデータに表れない理由や背景を把握する

サーベイの結果は、全社平均だけでなく、部署や属性ごとに分析します。エンゲージメントの可視化によって、課題のある層を早く発見できます。自由記述の回答からは、スコアの背景にある理由が見えてきます。

どの方法でも、測定そのものが目的になってはいけません。データを分析して課題を特定し、施策を実施し、結果を従業員にフィードバックする。この流れを継続して実践する仕組みが、エンゲージメント向上と離職防止の促進につながります。eNPSについては「eNPSとは」で解説しています。

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よくある質問(FAQ)

エンゲージメントが高いと、離職は減りますか?

減る傾向があります。自社の調査では、心理的安全性が低い職場の従業員の38.6%が12か月以内の退職を検討しており、高い職場の21.6%の約1.8倍でした。ただし、全社平均のスコアが上がっても、辞めてほしくない人材のエンゲージメントが低ければ、離職防止にはつながりません。

エンゲージメントと従業員満足度の違いは何ですか?

従業員満足度は、給与や職場環境など企業から提供されるものへの評価です。エンゲージメントは、従業員が自ら仕事や組織に貢献しようとする度合いです。満足度が高くても、エンゲージメントが低い従業員はいます。

エンゲージメント施策をしても離職が減らないのはなぜですか?

全社平均だけを追っている、原因を分析しないまま施策を重ねている、サーベイに本音が集まっていない、のいずれかであることが多いです。誰のエンゲージメントを高めたいのかを決め、その層の課題と原因を特定することから始めます。

優秀な人材ほど離職しやすいのはなぜですか?

仕事への熱意は高くても、組織への愛着が低いことがあるためです。経営理念と業務の接続、キャリアパス、成果に見合う評価と報酬で、組織にいる理由をつくることが大切です。

エンゲージメントはどうやって測定すればよいですか?

エンゲージメントサーベイ、パルスサーベイ、eNPS、1on1などの方法があります。結果を部署や属性ごとに分析し、課題を特定して施策につなげ、従業員にフィードバックするところまで設計します。

エンゲージメントサーベイの結果は従業員に共有すべきですか?

共有すべきです。結果のフィードバックがないと、従業員は「言っても何も変わらない」と感じ、次から本音で回答しなくなります。結果とあわせて、改善の施策と、対応できないことも伝えます。

平均ではなく、辞めてほしくない人材を見る

エンゲージメント向上は、離職防止に効果のある取り組みです。ただし、全社平均のスコアを追うだけでは、辞めてほしくない人材の離職は防げません。誰のエンゲージメントを高めたいのかを決め、その層の課題と原因を特定し、効く施策を実施する。そして、従業員の声に応え続けることが、エンゲージメントを高め、離職を防ぐ近道です。

離職防止の全体像

離職防止の取り組み ── 施策を増やす前に、辞める理由を在職中に拾う

エンゲージメントに限らず、従業員が辞める理由を在職中に把握し、施策につなげる進め方をまとめています。

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