介護離職の防止対策 ── 企業ができる取り組みと、言い出せる職場のつくり方

親の介護をきっかけに、働き盛りの社員が突然会社を辞めていく。介護離職は、管理職や中核を担うベテラン社員に起きやすく、企業にとって大きな損失になります。高齢化が進むなかで、仕事と介護の両立は一部の社員だけの問題ではなく、どの企業も向き合う経営課題になりました。

介護離職の難しさは、介護をしていることを職場に言い出さないまま、一人で抱え込んでしまうことにあります。会社に介護休業制度や相談窓口があっても、社員が介護の事情を打ち明けなければ、支援は届きません。気づいたときには退職の申し出を受けている、ということが珍しくないのです。

この記事では、介護離職の現状と原因、企業が受ける損失、2025年4月の育児・介護休業法の改正で事業主に義務づけられた対応、仕事と介護の両立を支える制度、企業ができる介護離職防止の対策と進め方を、公的な統計と自社の実態調査(2025年12月・正社員463名)をもとに解説します。

出所:株式会社yellba「組織サーベイ実態・意識調査」(2025年12月/全国の正社員 n=463/インターネット調査)。統計は出典ごとに記載。

介護離職とは

介護離職とは、家族の介護を理由に、それまでの仕事を辞めることです。親や配偶者の介護が始まり、仕事と介護の両立が難しくなったときに起こります。

介護は、子育てと違って始まる時期を予測しにくく、突発的に始まることが少なくありません。親が急に倒れて入院し、退院後の生活をどう支えるかを短い期間で決めなければならない、という形で始まることもあります。また、いつまで続くのかも見通せません。介護の負担は時間とともに増加することが多く、働き続けることへの不安も大きくなっていきます。

国は「介護離職ゼロ」を掲げ、介護休業制度の拡充や介護サービスの整備を進めてきました。働きながら家族の介護をする人は「ビジネスケアラー」とも呼ばれ、企業による両立支援への関心も高まっています。

介護離職の現状

介護・看護を理由に、年間約10万人が離職している

総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、過去1年間に介護・看護を理由に前の仕事を辞めた人は 約10.6万人 でした。同じ調査では、働きながら家族の介護をしている人は 約365万人 に上ります。

働き盛り世代に集中する

介護が必要になる親の年齢を考えると、介護に直面するのは40代〜50代が中心です。この世代は、管理職や現場のリーダーとして組織を支え、経験と専門性を持つ人材が多い層です。介護離職は、企業にとって最も抜けてほしくない人材の流出につながりやすいのです。高齢者の増加に伴い、介護に直面する社員はこれからも増える傾向にあります。

ビジネスケアラーはこれからも増える

経済産業省は、仕事をしながら家族の介護に従事するビジネスケアラーが、2030年には 約318万人 に上ると推計しています。介護離職や、介護による仕事の効率低下などを合わせた経済的な損失は、2030年に 約9兆円 に達するとされています(経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」、2024年3月)。少子高齢化と労働人口の減少が続くなかで、介護と仕事の両立支援は、人材を確保するうえでも欠かせない取り組みになっています。

介護離職が起こる原因

介護の負担が想像以上に大きくなる

最初は要支援の段階で、通院の付き添い程度だった介護が、要介護度が上がるにつれて、日常生活のほとんどを支える負担に変わっていきます。介護保険のサービスを使うための要介護認定の申請や、ケアマネジャーとの打ち合わせ、施設探しなど、平日の日中に対応しなければならない手続きも多くあります。介護者の心身の疲れがたまり、仕事と両立することが困難になっていきます。

会社の両立支援制度を知らない

介護休業や介護休暇などの制度は、法律で定められています。けれども、介護に直面するまで制度の内容を知らない社員は少なくありません。「介護休業は介護をするための休みで、休んでいる間に自分が介護をし続けなければならない」と誤解し、制度を使わないまま退職を選んでしまうケースもあります。

職場に介護のことを言い出せない

介護は家庭の事情であり、職場に話しにくいと感じる人が多くいます。「評価に響くのではないか」「重要な仕事を任されなくなるのではないか」「周囲に迷惑をかける」と考え、上司にも同僚にも伝えないまま、強いストレスを抱えて一人で抱え込んでしまいます。このように職場に知られないまま介護を続ける状態は「隠れ介護」とも呼ばれます。

管理職や職場の理解が足りない

上司が介護の大変さを理解していないと、社員は相談をためらいます。休みや早退が続いたときに、冷たい反応をされた経験があれば、なおさらです。制度があっても、職場に使いにくい雰囲気があれば、実際には使われません。

家族の中で負担が偏っている

兄弟姉妹がいても、近くに住んでいる人や独身の人に介護の負担が集中することがあります。家族内で役割を分担できないと、一人の負担が限界を超え、仕事を辞めるしかないと考えるようになります。

介護離職が企業と従業員にもたらす損失

企業にとっての損失

介護離職は、経験と専門性を持つ社員の流出です。これからも活躍してほしい管理職や熟練した社員が抜けると、その人が担っていた業務やノウハウが失われ、チームの生産性が下がります。代わりの人材を採用・育成するには、大きなコストと時間がかかります。残った社員の負担が増え、職場の士気が下がることもあります。

また、介護離職者を出し続ける企業は、「長く働けない会社」という評価を受け、企業イメージの低下にもつながります。働き続けたいと考える人材から選ばれにくくなるのです。

従業員にとっての損失

介護を理由に仕事を辞めると、収入が途絶え、経済的にも精神的にも苦しくなります。介護にはお金もかかるため、生活が苦しくなりやすくなります。年齢を考えると再就職も簡単ではなく、キャリアが途切れてしまいます。仕事を辞めて介護に専念した結果、社会とのつながりを失い、かえって心身の負担が増すこともあります。介護離職は、本人にとっても家庭にとっても、取り返しのつきにくい選択になりがちです。

2025年4月の法改正で、企業に義務づけられたこと

2025年4月1日に施行された改正育児・介護休業法では、介護離職防止のために、事業主が講じるべき措置が強化されました。主な改正点は次のとおりです。

改正内容事業主がすること
個別の周知・意向確認(義務)介護に直面したことを申し出た労働者に、介護休業制度や両立支援制度、申出先、介護休業給付金などを個別に知らせ、制度を使うかどうかの意向を確認する
早期の情報提供(義務)40歳に達する年度などのタイミングで、介護休業制度や両立支援制度について情報提供する
雇用環境の整備(義務)研修の実施、相談窓口の設置、制度利用の事例の提供、利用促進の方針の周知のいずれかを行う
介護休暇の対象拡大勤続6か月未満の労働者を労使協定で除外できる仕組みを廃止
テレワークの導入(努力義務)要介護状態の家族を介護する労働者が、テレワークを選べるようにする

出所:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」ほか。詳細は厚生労働省の資料をご確認ください。

改正に合わせて、就業規則や労使協定の見直しが必要になる場合があります。制度を整えるだけでなく、社員に周知徹底し、実際に使える状態にすることが事業主に求められています。

ここで押さえておきたいのは、個別の周知・意向確認が、社員からの「申出」を起点にしていることです。社員が介護のことを会社に伝えなければ、この仕組みは動き出しません。法改正への対応は、社員が介護のことを言い出せる職場をつくることとセットで考える必要があります。

仕事と介護の両立を支える主な制度

育児・介護休業法では、介護をする労働者のために、次のような制度が定められています。

制度内容
介護休業対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して休業できる
介護休暇対象家族1人につき年5日、2人以上なら年10日まで、時間単位でも取得できる
短時間勤務等の措置短時間勤務、フレックスタイム制、時差出勤、介護サービス費用の助成などのいずれかを会社が用意する
所定外労働の制限申し出により、残業を免除する
時間外労働・深夜業の制限申し出により、時間外労働や深夜の勤務を制限する
介護休業給付金雇用保険から、休業前の賃金の67%が支給される

出所:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」ほか。支給要件などの詳細は厚生労働省・ハローワークの資料をご確認ください。

大切なのは、介護休業を「自分が介護をするための休み」ではなく、「介護の体制を整えるための期間」として使うことです。介護休業の間に、地域包括支援センターやケアマネジャー(介護支援専門員)に相談し、介護保険サービスの利用や施設探しを進めておけば、休業明けも働き続けやすくなります。この考え方を社員に伝えることも、企業の大切な役割です。

企業ができる介護離職防止の対策

社員の介護の実態を把握する

まず、自社の社員がどのくらい介護に直面しているのか、今後介護が始まりそうな社員がどのくらいいるのかを把握します。アンケート調査や面談で、介護の有無や不安、必要としている支援を確かめます。介護をしていることを知られたくない社員もいるため、回答の扱いを明確にし、匿名で答えられる形にしておくことが大切です。

制度を周知し、正しく理解してもらう

介護休業や介護休暇、短時間勤務などの制度を、介護に直面する前から知っておいてもらいます。社内報やイントラネットでの発信、介護の基礎知識をまとめたハンドブックやマニュアルの配布、40歳を迎える社員への情報提供などを組み合わせます。介護保険の仕組みや、介護休業給付の内容もあわせて伝えると、社員が具体的に準備しやすくなります。制度の概要や社外の相談先などの情報を一覧にまとめ、社員が必要なときに参考にできるようにしておくと便利です。詳しい内容は、厚生労働省の資料も案内しておきます。

相談窓口をつくり、外部の専門家とつなぐ

人事部門に相談窓口を設け、介護について気軽に相談できる体制を整えます。社内だけで対応しきれない内容は、地域包括支援センターや社会保険労務士、介護の専門家など、外部の相談先と連携します。相談窓口があることを、繰り返し社員に知らせておくことも欠かせません。

管理職に研修を行う

社員が最初に介護のことを打ち明ける相手は、多くの場合、直属の上司です。管理職向けの研修で、介護の基礎知識、両立支援制度の内容、相談を受けたときの対応を学んでもらいます。上司が制度を理解し、相談を前向きに受け止められるかどうかで、社員が働き続けられるかが変わります。

柔軟な働き方を選べるようにする

テレワーク、フレックスタイム制、時差出勤、短時間勤務など、介護と両立しやすい働き方を選べるようにします。育児と介護を同時に担う社員もいるため、多様な働き方を用意しておくことが、就業の継続につながります。介護は突発的な対応が必要になることが多いため、急な休みや中抜けに対応できる仕組みがあると、社員の負担は大きく下がります。業務の属人化をなくし、チームで仕事を分担できる体制を整えておくことも、介護をする社員を支えます。

就業規則と社内の仕組みを整備する

人事・労務の担当者は、法改正に合わせて就業規則の規定や労使協定を見直し、社内の制度を整備します。法律で定められた内容を上回る独自の制度を設ける企業もあります。両立支援の取り組みを進める中小企業は、両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)を活用できる場合もあります。また、厚生労働省は、仕事と介護を両立できる職場環境の整備に取り組む企業が使えるシンボルマーク「トモニン」を設けています。

制度があっても、介護離職が減らない理由

制度を整え、周知もしているのに介護離職が減らない企業には、共通する問題があります。社員が介護のことを会社に伝えていないのです。

介護に限らず、社員は職場に本音を話しません。自社の調査では、サーベイや面談で「すべて本音で答えている」社員は 10.8% にとどまり、本音を控える理由で最も多いのは「言っても何も変わらないから」(35.0%)でした。介護のように家庭の事情が絡む話は、なおさら言い出しにくくなります。

介護離職を防ぐために必要なのは、制度の数を増やすことよりも、社員が「この会社なら話しても大丈夫だ」と思える状態をつくることです。困りごとを伝えたら、会社が実際に動いてくれた。その経験があってはじめて、社員は介護のような話しにくい事情も打ち明けられるようになります。日頃から社員の声を聞き、聞いた声に応えている職場ほど、介護の相談も早く届きます。社員に目を向け、仕事と介護の両立を図ることは、企業の責任でもあります。仕事と介護の両立の実現は、制度と職場の信頼関係の両方がそろって初めて可能になります。

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介護離職防止の取り組みを進める4つのステップ

ステップ1:実態を把握する

アンケートや面談で、社員の介護の状況と、今後の見通し、必要な支援を把握します。年代別の人数構成から、数年後に介護に直面する社員がどのくらい増えるのかも見ておきます。

ステップ2:制度と体制を整える

把握した実態をもとに、就業規則や制度を見直し、相談窓口と外部の相談先を整備します。法改正で義務となった個別の周知・意向確認、早期の情報提供、雇用環境の整備が漏れなく実施できているかも確認します。

ステップ3:周知し、使える雰囲気をつくる

制度と相談窓口を社員に知らせ、管理職研修で上司の理解を深めます。両立支援を全社で推進するには、経営層の関与が欠かせません。経営層が両立支援の方針を自らの言葉で発信すると、社員は制度を使ってよいのだと受け止めやすくなります。

ステップ4:効果を確かめ、見直しを続ける

制度の利用状況や相談件数、社員の声をもとに、取り組みの効果を確かめます。使われていない制度があれば、なぜ使われないのかを社員に聞き、課題を解決する方策を考えて運用を見直します。

上司が介護の相談を受けたときのポイント

社員から介護の相談を受けたとき、上司の最初の対応がその後を大きく左右します。

  • まず話してくれたことに感謝する:打ち明けるまでに迷っていたことを前提に、受け止める
  • すぐに結論を出させない:「辞めるかどうか」を急いで決めず、まず制度と相談先を一緒に確認する
  • 人事と連携する:両立支援制度の説明や手続きは、人事部門の担当者につなぐ
  • 業務の調整を一緒に考える:急な休みに備えて、仕事の分担や引き継ぎの方法を相談する
  • 評価への影響について誤解を解く:制度を使うことで不利な扱いを受けないことを伝える
  • 定期的に声をかける:介護の状況は変わるため、一度話を聞いて終わりにしない

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よくある質問(FAQ)

介護離職は年間どのくらい起きていますか?

総務省「令和4年就業構造基本調査」では、過去1年間に介護・看護を理由に離職した人は約10.6万人でした。働きながら介護をしている人は約365万人に上ります。

介護離職が多いのはどの世代ですか?

親の介護が始まる40代〜50代が中心です。管理職や中核を担う社員が多い世代のため、企業にとっての損失が大きくなりやすいのが特徴です。

2025年4月の法改正で、企業は何をしなければなりませんか?

介護に直面したことを申し出た社員への個別の周知と意向確認、40歳に達する時期などでの早期の情報提供、研修や相談窓口の設置などの雇用環境の整備が義務になりました。介護のためのテレワーク導入は努力義務です。

介護休業は何日取れますか?

対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して取得できます。休業中は、要件を満たせば雇用保険から介護休業給付金が支給されます。

介護休業と介護休暇の違いは何ですか?

介護休業は、介護の体制を整えるためにまとまった期間休む制度です。介護休暇は、通院の付き添いや手続きなどのために、年5日(対象家族が2人以上なら年10日)まで、1日単位や時間単位で休める制度です。

介護離職を防ぐために、企業はまず何から始めればよいですか?

社員の介護の実態と、今後介護に直面しそうな社員の数を把握することから始めます。そのうえで、制度の周知と相談窓口の整備、管理職への研修を進めます。

社員が介護のことを会社に話してくれないのはなぜですか?

評価に響くのではないか、周囲に迷惑をかけるのではないか、と心配しているためです。相談しても不利な扱いを受けないことを伝え、日頃から社員の声に応えている職場ほど、介護の相談も早く届きます。

中小企業でも介護離職防止に取り組めますか?

取り組めます。人数が少ない中小企業ほど、1人の介護離職の影響は大きくなります。相談窓口や外部の相談先の案内など、費用をかけずにできることから始められます。両立支援等助成金を活用できる場合もあります。

介護のことを言い出せる職場が、介護離職を防ぐ

介護離職は、ある日突然起きるように見えて、実際にはその前から社員が一人で悩みを抱えていることがほとんどです。制度を整え、周知することは欠かせません。けれども、社員が介護のことを会社に伝えなければ、どれほど充実した制度も使われません。日頃から社員の声を聞き、その声に応える。介護のような話しにくい事情も打ち明けられる職場をつくることが、介護離職を防ぐいちばんの近道です。

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介護に限らず、社員が辞める理由を在職中に把握し、施策につなげる進め方をまとめています。

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