従業員満足度調査(ES調査)を実施したのに、現場の実感と数字が合わない。スコアは悪くないのに人が辞めていく。そうした経験から「この調査は意味がないのではないか」と考える人事担当者は少なくありません。
結論から言うと、意味がないのは調査そのものではありません。集計された数字に、社員の本音がほとんど入っていないことが問題です。当社が全国の正社員463名に行った調査では、サーベイや面談で「すべて本音で答えている」と答えた人は10.8%でした。
この記事では、「意味ない」と感じるときに実際は何が起きているのかを3つに分解したうえで、回答する側の社員が何を考えているのかを実データで示します。設問の作り方や運用の立て直し方は、それぞれ別の記事で詳しく扱っています。
「意味がない」と言われるとき、3つの別々の問題が混ざっている
従業員満足度調査への不満は、ひとまとめに語られがちです。しかし中身を分けると、原因はおおむね次の3つのどれかです。対処法がまったく違うので、まず自社がどれなのかを見分けるところから始めます。
| パターン | 起きていること | 対処の方向 |
|---|---|---|
| ① 結果が動かない | 実施して、集計して、報告して終わる。翌年また同じ設問を配る | 運用と応答の設計を直す |
| ② 数字が実態と合わない | スコアは平均以上なのに、離職や不満の声が止まらない | 本記事の主題 |
| ③ 何を測るか決まっていない | 他社のテンプレートをそのまま使い、結果をどう読むか決めていない | 目的と設問を作り直す |
①と③についてはすでに別の記事で詳しく書いています。この記事が扱うのは②です。②は、いくら運用を丁寧にしても、設問を工夫しても解決しません。入ってくるデータそのものが実態とずれているからです。
実際に社員に聞くと、本音で答えているのは10.8%
「社員が本音を書いていないのではないか」という疑いは、人事の現場では以前から語られてきました。ただ、それがどの程度なのかを社員側に直接聞いたデータは多くありません。
当社は2025年12月に、全国の正社員463名(従業員規模99名以下/100〜299名/300〜999名/1,000名以上をほぼ均等に割付)を対象に調査を行いました。サーベイや面談でどこまで本音を出しているかを聞いた結果が次のとおりです。
| 回答 | 割合 |
|---|---|
| 「すべて本音で答えている」 | 10.8% |
| 意識的に本音を抑えている(本音遮断層) | 34.3% |
| 「どちらともいえない」を含めた、本音を出し切っていない層 | 57.4% |
およそ9割の社員が、何らかの形で本音を出し切っていません。半数以上は「どこまで書くか」を測りながら回答しています。
ここから導かれることは単純です。従業員満足度調査の集計値は、本音を出している約1割の回答と、程度の差はあれ調整された9割の回答を、区別せずに平均した数字だということです。スコアが実態と合わないのは、集計方法や設問の精度の問題ではありません。母集団の性質の問題です。
出典:株式会社yellba「組織サーベイ実態・意識調査」(2025年12月、全国の正社員463名)。全数値は社員の本音に関する調査データで公開しています。
本音を控える理由の1位は「言っても何も変わらないから」
では、なぜ社員は本音を書かないのか。同じ調査で「会社のアンケートや面談で本音を控える理由」を聞いたところ、1位は「言っても何も変わらないから」(35.0%)でした。
この結果は、対策の方向を大きく変えます。もし1位が「特定されるのが怖いから」であれば、匿名性の担保が答えになります。しかし実際の1位は、匿名性ではなく過去の実績です。前回書いたことが何も返ってこなかった。その経験が、次の回答の精度を落としています。
つまり社員は、調査に協力していないわけではありません。一度は協力して、返ってこなかったから降りたのです。調査の回を重ねるほどスコアが安定して「見える」ようになるのは、組織が改善したからではなく、期待した人から順に本音を出すのをやめているからかもしれません。
本音を出すのをやめた社員は、無回答にはならない
この構造には、経営側から見えにくいという厄介な性質があります。本音を出すのをやめた社員は、回答をやめるのではなく、当たり障りのない回答をします。回収率は下がりません。自由記述欄も、それらしい文章で埋まります。
変化として現れるのは、指摘が来なくなることだけです。耳の痛い声が減ったとき、それは改善のサインではなく、期待されなくなったサインである可能性があります。
「匿名にすれば書ける」は、どこまで本当か
本音を集めるための定番の対策が、匿名化です。実際に匿名は必要条件ですが、十分条件ではありません。
現場でよく聞かれるのは「匿名と言われても、書いたら誰か分かってしまう」という懸念です。部署単位・役職単位で集計される以上、少人数の部署では回答者がほぼ特定できます。自由記述であればなおさらです。「社内アンケート 犯人探し」という検索が近年増えているのは、この不安が実在することを示しています。
加えて、匿名性そのものよりも「匿名にした後に何が起きたか」の記憶が効きます。過去に一度でも、回答内容をもとに個人が呼び出された、あるいは会議で「こういうことを書いた人がいる」と共有された経験があれば、その組織で匿名を信じる社員はいなくなります。
匿名化を機能させるには、少なくとも次の3点を、調査の実施前に社員に明示しておく必要があります。
- 誰が生データを見るのか ── 人事の誰か、外部か、上長は見るのか
- どの単位まで分解して集計するのか ── 何名以下の部署は集計対象外にするのか
- 自由記述をどう扱うのか ── 原文のまま共有するのか、要約するのか
この3つを明示しないまま「率直な意見をお願いします」と依頼しても、社員は最悪のケースを想定して回答を調整します。それは社員が非協力的なのではなく、情報が足りない状態で身を守っているだけです。
スコアは悪くないのに、人が辞めていく理由
本音が入っていない調査を続けると、何が起きるのか。同じ463名調査から、もうひとつの結果を紹介します。
社内で言えなかった声がどこへ向かうかを、職場の心理的安全性の高低で比較しました。
| 心理的安全性が低い層 | 高い層 | |
|---|---|---|
| SNS・口コミサイト等へのネガティブ投稿の経験・意向 | 45.5% | 14.9% |
| 12か月以内に退職を検討している割合 | 38.6% | 21.6% |
口コミ投稿の意向で約3倍、退職検討で約1.8倍の差がつきました。社内で行き場をなくした声は、消えるのではなく、口コミと退職という形で外に出ます。
さらに、「会社が社員の声に誠実に対応していない」と感じている層に絞って、会社を周囲に勧めたいかを10点満点で聞いた結果が次のとおりです。
| 区分 | 点数 | 割合 |
|---|---|---|
| 批判者 | 0〜6点 | 95.2% |
| 中立者 | 7〜8点 | 4.0% |
| 推奨者 | 9〜10点 | 0.8% |
| 平均値 | 10点満点 | 2.50点 |
推奨者がほぼ消えています。注目すべきは、この分岐が声を集めているかどうかではなく、集めた声に応えているかどうかで起きている点です。調査を実施していても、応答の工程がなければ、この層は生まれます。
ここまでをまとめると、「意味がない」と感じる調査で実際に起きているのはこういうことです。入口で本音が絞られ、集計値は穏当な数字になる。一方で、言えなかった声は組織の中に残り続け、口コミと離職という形で、調査の外側で顕在化する。数字が動かないまま、リスクだけが蓄積していきます。
それでも従業員満足度調査に意味を持たせる、3つの条件
ここまでの内容は「調査をやめたほうがいい」という話ではありません。本音が入る条件を整えれば、調査は機能します。最低限、次の3つが必要です。
1. 前回の結果に対して、何をしたかを先に伝える
次の調査の依頼文より前に、前回の報告をします。全部に対応する必要はありません。「やる」「やらない」「保留」と、それぞれの理由を返すことが重要です。やらない理由が示されるだけでも、「言っても変わらない」という認識は変わります。最も効果が大きく、コストが最も低い施策です。
2. 匿名の範囲を、実施前に具体的に示す
前述の3点(誰が見るか/どの単位で集計するか/自由記述をどう扱うか)を、依頼文に書きます。抽象的な「匿名です」ではなく、具体的な運用として示します。
3. スコアではなく、原因を見に行く設計にする
満足度スコアは結果であって原因ではありません。「上司への満足度が3.2」と分かっても、次に何をすべきかは決まりません。点数の上下を追うだけの設計だと、対策が打てないまま次回を迎えることになります。何が何に効いているのかを構造として捉えられる設計が必要です。
それでも実感と合わないときは ── 結果ではなく、原因を明らかにする
3つの条件を整えても、調査の結果が現場の実感と合わないことがあります。その場合、測っている対象がずれている可能性があります。
従業員満足度調査は「いまどう感じているか」を測る設計です。一方で、離職や不信は「なぜそう感じるに至ったか」という因果の連なりから生まれます。満足度が低い理由が、上司との関係なのか、評価の不透明さなのか、あるいはその両方の背後にある別の要因なのかは、満足度の点数からは分かりません。
この場合に必要なのは、設問を増やすことでも頻度を上げることでもありません。結果を測るのではなく、原因を明らかにする設計に変えることです。満足度という結果指標をどれだけ細かく分解しても、原因そのものは出てきません。原因と結果を因果でつなぐ構造を、最初から調査の設計に組み込んでおく必要があります。
点数を追うのではなく、原因を特定する
EXギャップファインダーは、満足度の点数の上下を追うのではなく、原因から結果までを因果でつないで組織課題を特定する深層型の診断サーベイです。「どの項目が低いか」ではなく「何が何を引き起こしているか」を出すため、結果がそのまま次に着手する順番になります。半年〜1年に一度の組織の人間ドックとして実施します。
EXギャップファインダーを見るまず自社の現在地だけ知りたい方は、信頼スコア診断(無料・10問3分)から。メールアドレスの登録は不要で、その場で20点満点のスコアと、信頼が崩れやすいポイント=タイプが表示されます。
あわせて読みたい
- 従業員満足度調査とエンゲージメントサーベイの違い|3つの言葉を対等に整理しています
- 組織サーベイの設問例と作り方|設問設計の原則と領域別の設問例
- 従業員サーベイが形骸化する理由|実施しているのに回らなくなった場合の立て直し方
- 目安箱も1on1も機能しない理由|調査以外の手法で本音が拾えない構造
- 社員の本音に関する調査データ|正社員463名調査(2025年12月)
- 信頼の方程式とは ── 会社と社員の関係に組み直した組織版と5つの要素
よくある質問(FAQ)
従業員満足度調査は、やめたほうがいいのでしょうか?
やめる必要はありません。問題は調査という手法ではなく、本音が入らない条件のまま実施を続けることです。前回結果への応答と、匿名範囲の明示という2点を整えるだけでも、回答の質は変わります。
満足度スコアは高いのに、離職が減りません。なぜですか?
本音を出すのをやめた社員は、無回答ではなく当たり障りのない回答をするためです。回収率もスコアも下がらないまま、実態との乖離だけが広がります。当社調査では、社内で言えなかった声を持つ層は、12か月以内の退職検討が約1.8倍でした。
匿名にすれば本音は集まりますか?
匿名は必要ですが、それだけでは足りません。当社調査で本音を控える理由の1位は「言っても何も変わらないから」(35.0%)で、匿名性への不安ではありませんでした。過去に返答がなかった経験のほうが強く効いています。
従業員満足度調査とエンゲージメントサーベイは、何が違いますか?
測っている対象が違います。満足度は「与えられた環境をどう感じているか」、エンゲージメントは「自ら関与しようとしているか」を見ます。詳しくは3つの調査の違いを整理した記事で解説しています。
実施の頻度はどれくらいが適切ですか?
頻度より、応答までの一巡が回るかで決めます。年1回でも結果を返せているなら機能します。逆に、月次で聞いても返答がなければ、頻度が高いほど「答えても無駄だ」という学習が早く進みます。
回答率が低い場合、どう考えればよいですか?
回答率の低さは分かりやすい失敗のサインなので、まだ扱いやすい状態です。より注意が必要なのは、回答率が高いのに指摘が減っている状態です。前回と比べて自由記述の批判的な内容が減っている場合は、改善ではなく期待の低下を疑ってください。
まとめ
従業員満足度調査が「意味ない」と言われる背景には、集計値に本音が入っていないという構造があります。本音をすべて出している社員は10.8%にとどまり、控える最大の理由は「言っても何も変わらないから」でした。
設問の精度を上げる前に、前回の結果に応答すること。匿名の範囲を具体的に示すこと。この2つだけで、次回の数字の意味は変わります。そのうえでなお実感と合わないときは、満足度ではなく原因の構造を明らかにする設計を検討する段階です。
本記事で引用した数値の出典:株式会社yellba「組織サーベイ実態・意識調査」(2025年12月、全国の正社員463名)
