eNPS(従業員推奨度)やエンゲージメントが上がらない本当の理由は、設問の質や測定頻度ではなく、集めた声に「応答」がないことです。会社が誠実に対応していないと感じる層では、推奨意向の批判者率が95.2%に達します。逆に言えば、応答と改善の実感が伴えば、eNPSは動きます。本記事では、eNPSが低い原因と、上げるための実践要点を、自社の実態調査データとともに解説します。
出所:株式会社yellba「組織サーベイ実態・意識調査」(2025年12月/全国の正社員 n=463/インターネット調査)。以下の数値はすべて本調査による。
eNPSとは
eNPS(イーエヌピーエス)は Employee Net Promoter Score の略で、日本語では「従業員推奨度」と訳します。自分の職場を、親しい友人や知人にどれくらい勧めたいかを数値で表した指標です。
もともとは顧客ロイヤルティを測る NPS(Net Promoter Score)という指標があり、それを従業員向けに応用したものが eNPS です。NPS は Bain & Company、Fred Reichheld、Satmetrix の登録サービスマークで、eNPS も「eNPS℠」と表記されることがあります。
なぜ「満足しているか」ではなく「勧めたいか」を聞くのか
従業員満足度(ES)調査では「今の職場に満足していますか」と聞きます。eNPS が聞くのはそこではありません。
「大切な人に勧められるか」という問いは、答える側にとってハードルが高い問いです。自分が我慢できる範囲なら「まあ満足」と答えられますが、友人に勧めるとなると、その人の人生に対する責任が発生します。だから本音が出やすい。
満足度調査では点数が高く出るのに、離職が止まらない。この食い違いに悩む企業が eNPS に着目するのは、この「本音の出やすさ」が理由です。
実際の設問
eNPS の設問は、原則としてこの1問です。
「現在の職場を、親しい友人や知人にどの程度勧めたいと思いますか」
0(まったく勧めたくない)〜 10(強く勧めたい)の11段階でお答えください。
1問で完結するため、月次や四半期での継続測定に向いています。多くの企業はこの1問に加えて、「そう答えた理由」を自由記述で聞く形を取ります。
eNPSの計算方法
回答を3つの層に分ける
11段階の回答を、点数によって3つに分類します。
| 区分 | 点数 | 意味 |
|---|---|---|
| 推奨者(Promoter) | 9〜10点 | 職場を積極的に勧められる層 |
| 中立者(Passive) | 7〜8点 | 悪くはないが、勧めるほどではない層 |
| 批判者(Detractor) | 0〜6点 | 勧めたくない、むしろ止める層 |
注意したいのは、7点・8点が「中立」に分類される点です。学校のテストの感覚では8割は良い点ですが、eNPS では推奨者に入りません。この設計が、後述する「マイナスになりやすさ」の一因になっています。
計算式
eNPS = 推奨者の割合(%) − 批判者の割合(%)
中立者は計算に使いません。
具体例
社員100人に聞いて、推奨者15人・中立者35人・批判者50人だったとします。
- 推奨者の割合:15 ÷ 100 = 15%
- 批判者の割合:50 ÷ 100 = 50%
- eNPS = 15 − 50 = −35
スコアの範囲
全員が推奨者なら +100、全員が批判者なら −100。理論上は −100 から +100 の範囲を取ります。パーセントの引き算で求めますが、結果は「%」ではなくポイントとして扱うのが一般的です。
eNPSの平均スコアと、その正しい使い方
よく引用される「−61.1」の出どころ
日本企業の eNPS 平均として、多くの記事が −61.1 という数字を挙げています。これは株式会社ビービットの「eNPSは何によって上がるのか ― 16業界eNPS調査結果」による数値です。
ただし、この調査が公表されたのは 2019年11月です。
引用している記事の多くは調査年を書いていません。7年前の数字が、現在の基準値であるかのように流通しています。コロナ禍を挟んで働き方が大きく変わったことを考えれば、この数字をそのまま「今の日本の平均」として自社の目標設定に使うのは適切ではありません。参考値として押さえる価値はありますが、扱いには注意が必要です。
なぜ日本ではマイナスになりやすいのか
出典の新旧を問わず、日本企業の eNPS がマイナスに振れやすいこと自体は、多くの調査に共通する傾向です。理由は2つ考えられます。
1. 評価文化の違い
日本では「普通」を5〜7点あたりに置く回答傾向があります。10点満点で満足を表すとき、8点でも十分に高い評価という感覚です。しかし eNPS では8点は中立者。悪い評価をしていないつもりの回答が、スコアを押し下げます。
2. 「勧める」という行為への抵抗
知人に何かを勧めて、それが期待外れだったときの気まずさ。この心理的コストを重く見る文化では、9点・10点をつけにくくなります。
つまり、マイナスであること自体は必ずしも異常ではありません。問題はその先です。
かつては「勧めたくはないが、辞めるつもりもない」という状態が成り立ちました。転職が当たり前になった今、その距離は縮まっています。推奨意向の低さは、そのまま離職予備軍の大きさとして読むべき数字になりました。スコアがマイナスであること自体より、誰が、なぜ勧めないのかが分からないまま放置されていることのほうが問題です。
比べるべきは、他社ではなく自社の前回
平均値との比較にこだわると、たいてい行き詰まります。業種・規模・回答者構成が違えば、そもそも横並びで比べられません。意味があるのは、次の2つの比較です。
- 時系列の比較:自社の前回スコアと比べて、上がったか下がったか
- 部門間の比較:同じ会社の中で、どこが低いのか
特に後者は原因の特定につながります。全社平均が −40 でも、A部門が −10 でB部門が −70 なら、見るべきはB部門で何が起きているかです。全社の平均値をひとつ眺めているだけでは、打ち手は出てきません。
eNPS は順位表ではなく、自社を観察するための道具です。
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無料でダウンロードeNPSとNPS・ES・エンゲージメントサーベイの違い
似た指標が並ぶため、混同されがちです。整理します。
| 指標 | 誰に聞くか | 何を測るか | 設問数 |
|---|---|---|---|
| NPS | 顧客 | 商品・サービスを人に勧めたいか | 1問+理由 |
| eNPS | 従業員 | 職場を人に勧めたいか | 1問+理由 |
| ES(従業員満足度) | 従業員 | 待遇・環境・人間関係への満足度 | 数十問 |
| エンゲージメントサーベイ | 従業員 | 組織への愛着・貢献意欲を多面的に | 数十〜百問 |
eNPS と ES の違い
ES は「満足しているか」、eNPS は「勧めたいか」。満足は受け身、推奨は能動的な行為です。福利厚生が充実していれば満足度は上がりますが、それだけで「友人に勧めたい」とはなりません。逆に、給与が特別高くなくても「ここで働けてよかった」と思える職場は推奨者を生みます。
ES が高いのに離職が減らない企業は、この差を見落としている可能性があります。
eNPS とエンゲージメントサーベイの違い
エンゲージメントサーベイは多面的に状態を把握するもの、eNPS は一指標で全体の温度を測るものです。役割が違うので、対立するものではありません。
実務では、eNPS を月次・四半期で継続的に測って変化を捉え、下がったときに詳細なサーベイで原因を掘る、という組み合わせが機能します。
ただし、どちらも「測定」であることに変わりはありません。測るだけではスコアは動かないという点は、両者に共通する限界です。
eNPS調査の進め方
設問は1問だけでよいのか
推奨度を聞く1問だけでもスコアは出ます。しかしそれだけでは何も分かりません。
「なぜその点数をつけたのですか」という自由記述を必ずセットにしてください。スコアは温度計の数字にすぎず、原因は自由記述の中にあります。余裕があれば、以下のような補助設問を数問加えると、原因の当たりがつきやすくなります。
- 意見や困りごとを、率直に言える雰囲気があるか
- 出した意見が、その後どう扱われたか分かるか
- 直近半年で、職場が改善されたと感じた経験があるか
頻度はどれくらいが適切か
四半期に1回を基本とし、変化を早く掴みたい時期は月次にする、という形が現実的です。
年1回では、スコアが下がった原因を思い出せません。逆に毎週では回答負荷が高く、回答率が落ちます。回答率が落ちたサーベイのスコアは、それ自体が信頼できないデータになります。
大切なのは頻度よりも、測ってから応答するまでの速さです。四半期に1回でも、2週間以内に「こう受け止めた、ここを変える」と返す会社と、年1回測って何も返さない会社では、結果がまったく違います。
匿名にすべきか
匿名を推奨します。本音を引き出すことが目的の指標だからです。
ただし、匿名にすれば本音が出るわけではありません。「匿名だと言われても、書き方で誰か分かってしまう」という不安が残るためです。実際、本音を控える理由としては「言っても何も変わらないから」(35.0%)に次いで、特定されることへの懸念が挙がります。
匿名性を担保する仕組みと同時に、書いた内容がどう扱われるかが見えることが必要です。
自由記述をどう扱うか
ここが最も差が出るところです。よくある失敗は次の3つです。
- 集計だけして終わる ── 「ネガティブな意見が○件」で終わり、中身が読まれない
- 一部だけ経営に上がる ── 都合のよい声だけが抜き出され、実態が伝わらない
- 返さない ── 読まれてはいるが、社員には何も返らない
3つ目が最も深刻です。社員から見ると、読まれなかった場合と何も変わりません。意見を出しても反映されないという経験は、次回の回答率と回答の質を確実に下げます。
自由記述は「集めて終わり」ではなく、どれに応答するかを選び、選ばなかった理由も含めて返すところまでが一連の作業です。匿名で集めた声に共感の数で優先順位をつけ、会社が公式に応答するところまでを仕組みにしたのが 組織改善クラウド yellba です。
eNPS・エンゲージメントが低い本当の原因
原因は「社員のやる気」ではなく、声が扱われない経験の蓄積にあります。本音を控える最大の理由は「言っても何も変わらない」(35.0%)。改善状況が共有されていると感じる社員は25.9%(4社に1社)にとどまります。「意見を出しても反映されない」という実感が、推奨意向を押し下げます。
「測るだけ」ではeNPSは上がらない
eNPSは現状を映す体温計であり、測定そのものは状態を変えません。スコアを追うだけで応答が伴わないと、社員は「また測られて終わり」と感じ、かえって信頼を損ないます。サーベイが形骸化する構造は 従業員サーベイはなぜ形骸化するのか で詳しく解説しています。
eNPSを上げる3つの要点
- 応答する:集めた声に対し、誰が何をどう変えるかを返す。
- 透明にする:扱われ方が見えること自体が信頼を生む。「声を透明に扱う仕組み」への賛成は54.9%、利用意向も37.1%。
- 改善を実感させる:小さくても「言えば変わった」経験を積み上げる。
まず原因を「構造」で掴む
eNPSを上げるには、低スコアの「なぜ」を特定することが先決です。原因(組織構造)→体験(EX)→状態(個人)→結果(推奨意向・定着)を因果でつなぐ深層型の診断が有効です。詳しくは EXギャップファインダー、声が届かない構造の全体像は なぜ社員の本音は組織に届かないのか をご覧ください。
こんな組織に向いています
- eNPSやエンゲージメントスコアが低い・伸び悩んでいる
- 測ってはいるが、改善アクションにつながっていない
- 「なぜ低いのか」の原因を特定できていない
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よくある質問(FAQ)
eNPSの計算方法を教えてください。
推奨者(9〜10点)の割合から、批判者(0〜6点)の割合を引きます。中立者(7〜8点)は計算に含めません。たとえば推奨者15%・批判者50%なら、15 − 50 = −35 です。理論上の範囲は −100 から +100 です。
日本企業のeNPSの平均はどれくらいですか?
よく引用される「−61.1」は、ビービットが2019年11月に公表した16業界調査の数値です。7年前の調査であり、現在の基準値としてそのまま使うのは適切ではありません。日本企業がマイナスに振れやすい傾向自体は共通していますが、比べるべきは他社平均ではなく、自社の前回スコアと部門間の差です。
eNPSがマイナスなのは異常ですか?
異常ではありません。7点・8点が中立者に分類される設計上、日本の回答傾向ではマイナスに出やすくなります。問題はスコアの絶対値ではなく、下がり続けているか、特定の部門だけが極端に低いかです。
eNPSとNPSの違いは何ですか?
聞く相手が違います。NPSは顧客に「商品・サービスを勧めたいか」を、eNPSは従業員に「職場を勧めたいか」を聞きます。計算方法は同じです。
eNPS調査はどれくらいの頻度で行うべきですか?
四半期に1回を基本とし、変化を早く掴みたい時期は月次にする形が現実的です。年1回では原因を特定できず、毎週では回答率が落ちます。ただし頻度よりも、測ってから応答するまでの速さのほうが結果に効きます。
eNPSを上げるには何から始めればよいですか?
「応答の設計」からです。集めた声に誰がどう応えるかを先に決め、改善を社員に返す循環をつくること。測定の前後で「言えば変わる」という実感を積み上げることが、推奨意向の改善につながります。
なぜ従業員エンゲージメントが低いのですか?
多くは「声が扱われない」経験の蓄積が原因です。本音を控える最大の理由は「言っても変わらない」(35.0%)で、改善状況が共有されていると感じる社員は25.9%にとどまります。応答の不在が、エンゲージメントと推奨意向を下げます。
eNPSとエンゲージメントサーベイの違いは何ですか?
eNPSは「職場を勧めたいか」を一指標で測るもの、エンゲージメントサーベイは多面的に状態を把握するものです。どちらも測定であり、上げるには別途「原因の特定」と「応答」が必要です。深層型の診断で原因まで掘ると、改善の優先順位がつけやすくなります。
「測る」を「上がる」に変える
eNPSは、原因の特定と応答の設計で上がります。yellbaは診断から改善の実行までを支援します。まずは資料請求・無料相談からご検討ください。
