静かな退職とは、会社に在籍したまま、契約上求められる必要最低限の業務だけを行い、それ以上の関与をしない働き方のことです。「退職」という語がつくため離職の前兆と受け取られがちですが、実態は逆で、静かな退職をしている人は辞めません。そのため勤怠にも退職率にも表れず、人事からはほぼ見えません。本記事では、静かな退職の定義と実態、そして「見えないもの」をどう見分けるかを、全国の正社員463名への自社調査と公表調査をもとに整理します。
出所:株式会社yellba「組織サーベイ実態・意識調査」(2025年12月/全国の正社員 n=463/インターネット調査)。とくに記載のない数値は本調査による。
静かな退職とは何か
静かな退職(Quiet Quitting)は、仕事への熱意や組織への関与が薄れ、求められた最低限の業務だけを淡々とこなす状態を指します。身体は職場にありながら、心理的には組織から離れている状態です。
離職や休職と決定的に違うのは、組織の側から見えないことです。
| 本人の状態 | 組織から見えるか | |
|---|---|---|
| 離職 | 辞める | 見える(退職願が出る) |
| 休職・不調 | 働けない | 見える(勤怠に出る) |
| 静かな退職 | 辞めない。働いてもいる。 ただし、パフォーマンスは最低限にとどめる | 見えない。 勤怠にも退職率にも表れない |
「辞めない」ことは、この現象の付随的な特徴ではなく、定義の一部です。マイナビの調査では、静かな退職をしている人の73.7%が「今後も続けたい」と回答しています。パーソル総合研究所にいたっては、「転職したいと思わない」ことを静かな退職者の条件に含めています(ほかに「月間残業5時間未満かつサービス残業0時間」「出世志向とプライベート犠牲の価値観がいずれも低い」の2条件)。
つまり、離職防止の施策では捕まりません。辞める予兆を探しているかぎり、この状態は見つからないということです。実際に辞めていく人の兆候については 優秀な人ほど静かに辞める ── 黙って辞める兆候と、声が消える前にできること で解説しています。
静かな退職は「悪」なのか
結論からいえば、それ自体は悪ではありません。マイナビの調査では、企業側の42.2%が静かな退職に「賛成」と回答しています(反対は30.1%)。前年から3.3ポイント増えており、賛成が反対を上回っています。
労働契約を遵守した上で、ワークライフバランスを重視して働き方の線を引くこと自体は、一つの選択です。それを是正しようとすれば、単に働き方への介入になります。
問題になるのは、それが本人の自由意志による選択ではなく、期待の消失の結果である場合だけです。「頑張っても意味がない」という経験の蓄積によって関与を下げているなら、それは元来持っていた本人の価値観ではなく組織への諦めです。当社調査では、社員がサーベイや面談で本音を控える理由の第1位が「言っても何も変わらない(徒労感)」で35.0%でした。
そして、この2つは行動を見ただけでは区別できません。働き方の線を引いている人も、諦めた人も、外から見える行動はほとんど同じだからです。区別できるのは、会社への期待が残っているかどうかだけです。
どのくらいいるのか ── 測り方で8倍変わる
| 調査 | 測り方 | 該当率 |
|---|---|---|
| マイナビ(2026年発表・n=3,000) | 本人の自己認識 | 46.7% |
| パーソル総合研究所(2025年) | 残業時間・転職意向・出世志向による行動定義 | 5.8% |
同じ言葉で、8倍の開きがあります。自己認識ベースでは20代50.5%・30代49.1%・50代46.7%・40代42.3%と、若手だけの現象ではありません。むしろ50代が40代を上回っています。いっぽう行動による厳密な定義では5.8%にとどまり、こちらは2017年比で約1.5倍に増えています。
この差そのものが重要です。「静かな退職をしている」と自認する人の大半は、行動としては普通に働いています。変わっているのは働きぶりではなく、会社への期待です。だからこそ、勤怠や成果を見ていても分かりません。
なぜ、人事から見えないのか
静かな退職者は、不満を言いません。辞めもしません。したがって、人事が普段見ている指標のどこにも表れません。
サーベイでも見えにくくなります。静かな退職の状態にある人は、強い不満ではなく無関心に近い状態にあるため、回答は「どちらともいえない」に寄ります。当社調査でも、中立回答は全設問で33〜48%を占めました。平均値は動かないまま、内側で期待だけが抜けていきます。
さらに、そもそも答えていない層がいます。サーベイに本音で答えていない、あるいは参加していない社員は合計34.3%(約3人に1人)。期待を失っている人ほど、この層に含まれます。
結果として、「特に問題は上がってきていない」という状態が続きます。それは、問題が無いことを意味しません。
見分け方 ──「行動」と「期待」を分けて見る
行動だけを見ても、静かな退職とただのプライベート寄りの働き方は区別できません。2つに分けて見る必要があります。
① 働き方に現れる変化(行動)
- 指示された範囲のことだけを行い、それ以上には踏み込まない
- 「それは自分の担当ではない」という反応が増えた
- 自発的な提案や改善の申し出が、この1年ほとんど出ていない
- 会議で発言しなくなった(オンライン会議でカメラオフが常態化した)
- 新しい業務・役割・プロジェクトへの挙手がない
- 1on1や報告・相談の受け答えが表面的になり、業務外の会話が減った
この6つは、本人が線を引いているだけの場合にも同じように現れます。ここだけを見て是正に動くと、プライベートを重視して働いている社員の期待まで失わせます。
② 会社への期待(ここが本体)
- 「どうせ言っても変わらない」という趣旨の発言を、社内で聞いたことがある
- 社員の提案が実際に実現した例を、この1年で3つ挙げられない
- 社員が「自分の裁量で職場の課題を改善できる」とは思っていない
- 会社が社員の声に誠実に対応していると、社員に思われている自信がない
- 自社を「働く場として友人に勧めたい」と思う社員は少数だと思う
- 問題や異論を、安心して口にできる雰囲気があるとは言いにくい
①が少なく②が多いときが、最も手を打ちやすい局面です。期待はすでに失われていますが、行動にはまだ出ていない段階だからです。逆に①が多く②が少ないなら、それは本人の選択かもしれません。
静かな退職の兆候チェックリスト 22項目
上の12項目を含む、全22項目のチェックリストです。「行動」と「期待」を分けて数え、4つの型のどれに当てはまるかを判定します。全項目に自社調査の根拠データを付けています。所要5分、ツールの導入は不要です。
チェックリストを無料でダウンロード期待が消えるとき、何が起きているか
全国の正社員463名への自社調査から、期待が消えていく過程を示す数値を抜き出しました。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 本音を控える理由の第1位「言っても何も変わらない(徒労感)」 | 35.0% |
| サーベイに本音で答えていない/そもそも参加していない | 34.3% |
| 自分の意見や提案が改善につながっている実感がない | 39.7% |
| 自分の裁量で職場の課題を改善できると感じる | 24.2% |
| 会社が社員の声に誠実に対応していると感じる | 35.0% |
| 職場で異論を安心して言えない | 21.8% |
| サーベイ結果や改善状況が「十分に共有されている」 | 2.8% |
とくに「十分に共有されている」と感じている社員が2.8%という数字は、徒労感の直接の温床です。アンケートにちゃんと答えたのに、その後どうなったのかが分からない。この経験が積み重なると、次から本音では答えなくなります。
「誠実さ」の有無で、働く場としての評価はここまで変わる
| 会社が社員の声に誠実に対応していると… | n | 推奨度平均 | 批判者率 |
|---|---|---|---|
| 感じない | 126 | 2.58 | 95.2% |
| どちらともいえない | 175 | 4.38 | 91.4% |
| 感じる | 162 | 6.21 | 50.0% |
制度や待遇の話ではありません。声がどう扱われるかだけで、働く場としての評価がここまで動きます。裏を返せば、予算をかけずに動かせる余地がここにあるということです。
また、静かな退職は無関心ではありません。「制度がすぐ変わらなくても、誠実に向き合う姿勢には価値がある」と答えた層は48.4%、「社員の声を透明に扱い改善につなげる仕組み」の導入に賛成する層は54.9%。すぐに制度を変えられなくても、期待は戻りうるということです。
予算をかけずに、今週できること
静かな退職に効く手は、新しいツールの導入ではありません。消えた期待を、実際に返すことです。
1. 直近のサーベイに対して「何をしたか」を社員に返す
効果が最も大きく、費用がゼロなのがこれです。重要なのは、できたことだけでなくできなかったことと、その理由を書くことです。「検討したが、コスト面で今期は見送った」は、無言よりはるかに信頼を生みます。徒労感の正体は「対応されなかったこと」ではなく「対応されたかどうかすら分からないこと」です。
2. 社員の提案が実現した例を、この1年から3つ挙げてみる
挙がらなければ、それが期待の消える理由です。挙がったなら、それが社員に伝わっているかを確認してください。実現していても伝わっていなければ、社員にとっては起きていないのと同じです。
3. 管理職に「部下が最後に自発的な提案をしたのはいつか」を聞く
思い出せない部下がいた場合、その人はすでに関与を下げています。評価や指導の材料にはせず、把握のためだけに使ってください。管理職を追及すると、翌月から報告が正確でなくなります。
やってはいけないこと
静かな退職そのものを「是正」しようとしないでください。企業側でも42.2%が賛成している働き方です。変えるべきなのは、諦めによる関与の低下だけです。また、新しいサーベイを回すのは1が終わってからにしてください。過去の回答に何も返さないまま次を配ると、「やはり言っても変わらない」という確信を与えることになります。
よくある質問(FAQ)
静かな退職は何が悪いのでしょうか?
それ自体は悪ではありません。マイナビの調査では企業側の42.2%が「賛成」と回答しています(反対30.1%)。労働契約を遵守した上で働き方の線を引くことは一つの選択です。問題になるのは、それが本人の自由意志ではなく、期待の消失の結果である場合だけです。
静かな退職の特徴は?
指示された範囲のことだけを行う、自発的な提案が出ない、会議で発言しない、新しい役割に挙手しない、報告・相談が最低限になる、といった変化が現れます。ただしこれらは健全なワークライフバランスの選択でも同じように現れるため、行動だけでは判断できません。会社への期待が残っているかどうかを併せて見る必要があります。
静かな退職は迷惑ですか?
職務範囲が明確に定義されていれば、契約どおりの働き方であり、迷惑には当たりません。摩擦が起きるのは、職務範囲が曖昧なまま「気づいた人がやる」運用になっている組織です。その場合、負担が特定の社員に集中し、その人まで関与を下げる連鎖が起きます。
静かな退職は普通ですか?
自己認識ベースでは全体の46.7%、20代では50.5%が該当すると回答しており、すでに多数派に近い状態です(マイナビ調査)。一方、残業時間や転職意向を用いた厳密な行動定義では5.8%にとどまります(パーソル総合研究所)。「そう感じている人」は多く、「行動まで変わっている人」は少ないのが実態です。
期待が消えた場所は、特定できます
静かな退職は不満として表明されないため、サーベイのスコアには「どちらともいえない」として現れます。平均値は動かないまま、内側で期待だけが抜けていきます。スコアの高低ではなく、なぜそのスコアなのかという原因を特定しないかぎり、打ち手は空振りします。
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参照:マイナビ「正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)」(個人 n=3,000/企業 n=807)、パーソル総合研究所「定点調査から見える『静かな退職』の動向」。「推奨度平均」は「現在の会社を働く場として親しい知人や友人に勧めたいか」を0〜10点で尋ねた平均値、「批判者率」は0〜6点の回答者の割合。構成比は小数第2位を四捨五入。
