退職理由の本音と建前 ── 辞めると決めた人から、本音は出ない

退職面談で語られる理由の多くは、円満に辞めるための建前です。本音は、辞めると決めた時点でもう出てきません。質問を工夫しても、聞き手を変えても、この順番は変わりません。

本音が出るとしたら、それは辞めると決まる前です。ところが在職中はもっと言われていない。サーベイや面談で「すべて本音で答えている」社員は 10.8% にとどまります。

この記事では、よくある建前と裏にある本音を整理したうえで、なぜ退職面談では届かないのか、辞める前に拾うには何が要るのかを、自社の実態調査データとともにまとめます。

出所:株式会社yellba「組織サーベイ実態・意識調査」(2025年12月/全国の正社員 n=463/インターネット調査)。

退職理由の「本音」と「建前」はなぜ食い違うのか

建前は、会社に伝える退職理由です。角が立たず、引き止めにあいにくく、誰も傷つけない言い方が選ばれます。本音は、実際に辞める決め手になった理由です。多くの場合、人・評価・将来の見通しに関わります。

この2つが食い違うのは、辞める人が不誠実だからではありません。建前を言うほうが、辞める人にとって合理的だからです。

建前を選ぶ3つの理由

1. 引き止められたくない
本当の理由を言えば、会社は「それなら改善する」と返してきます。すでに気持ちが固まっている人にとって、その会話は時間の浪費でしかありません。反論の余地がない理由を選ぶほうが早く終わります。

2. 円満に辞めたい
同じ業界で再会する可能性があります。転職先が前職に確認を入れることもあります。最後に本音をぶつけて得られるものは、ほぼありません。

3. 言っても変わらないと思っている
これが一番大きい。在職中に何度か言ってみて、何も起きなかった。その経験がある人は、最後の面談でも言いません。本音を控える理由として最も多いのが「言っても何も変わらない」で 35.0% です。

3つ目だけは、会社側で減らせます。1つ目と2つ目は減らせません。つまり退職面談の改善で取り返せる範囲は、もともと限られています。

よくある建前と、その裏にある本音

建前は「反論できないこと」が選ばれます。だいたいこの5つに集約されます。

よくある建前裏にあることが多い本音
キャリアアップしたい今の会社では評価されない/成長できる仕事が回ってこない
家庭の事情・家族の都合働き方の相談ができない/言っても調整してもらえなかった
体調・体力的な理由業務量が是正されない/相談しても放置された
他社から声をかけられたもともと探していた。誘いは最後のひと押しにすぎない
給与・条件面金額そのものより、決まり方や説明に納得できない

「給与」は特に注意が要ります。金額の不満として報告されると、給与テーブルの見直しという打ち手に流れがちですが、実際には「なぜその評価なのか説明されない」ことへの不満であることが少なくありません。前者は費用がかかり、後者は運用で直せます。取り違えると、お金を使って何も解決しないことになります。

建前を分類しても、本音は出てきません。分類でわかるのは「どの入口から語られたか」だけです。

退職理由ランキングは、そのまま信じてよいか

「退職理由 ランキング」で出てくる調査は、たいてい辞めた本人が回答したアンケートです。会社に伝えた建前ではなく本音を答えてもらう設計になっているものが多く、その点では会社側の集計より実態に近いといえます。ただし読むときに気をつけたいことが3つあります。

1. 調査年が古いことが多い

各社の記事が引用している代表的なものに、エン・ジャパンの「退職理由のホンネと建前」があります。よく引かれているのは 2022年版 です。引用している記事の側は、調査年を書いていないことが少なくありません。

コロナ禍前後で働き方も転職市場も動いています。4年前の順位を、いまの自社の基準値として使うのは適切ではありません。引用されている数字を見たら、まず何年の調査かを確認してください。

2. 「全体の順位」は自社に当てはまらない

全国平均の1位が、自社の1位である保証はありません。業種・規模・職種で構成が変わります。ランキングは「そういう理由が世の中にはある」という一覧であって、自社の診断結果ではありません。

3. 順位は「言いやすさ」の順位でもある

本音として答えてもらう調査でも、答えやすい選択肢に寄ります。上司との関係や評価への不満は、選択肢があっても選ばれにくい。上位に来ないことが、その理由が少ないことを意味しません。

ランキングは、社内で話を始めるきっかけとしては使えます。打ち手を決める材料にはなりません。打ち手は自社のデータから決めるものです。

退職面談では本音が聞けない3つの理由

退職面談で本音が出ないのには、理由が3つあります。いずれも面談の進め方の問題ではなく、辞める人が置かれている状況の問題です。なお、辞める前に出る兆候については 優秀な人ほど静かに辞める で詳しく解説しています。

理由1 もう意思決定が終わっている

面談の時点で、転職先が決まっていることがほとんどです。そこから出てくるのは、決定の説明であって、決定の材料ではありません。「何が決め手でしたか」と聞いても、後から整理された物語が返ってきます。

理由2 正直に話す利益がない

本音を伝えても、その人が得るものはありません。むしろ揉めるリスクがあります。辞める本人にとって、本音は言わないほうが得だという構造は、質問の工夫では変えられません。

理由3 聞き手が利害関係者

上司が聞けば、上司への不満は出ません。人事が聞いても、その人事が評価制度を作っている以上、評価への不満は出しにくい。第三者に委託すれば多少は改善しますが、「もう辞める」という前提は変わらないので、理由1と2は残ります。

「質問の工夫」で届く範囲と、届かない範囲

退職面談の質問設計そのものには意味があります。過去・現在・未来に分けて聞く、事実から入る、評価に触れない——こうした工夫で、業務プロセスの問題や引き継ぎの課題は拾えます。

拾いづらいのは、人間関係・評価の納得感・将来の見通しです。この3つが辞める決め手になっていることが多いのに、ちょうどそこが出てきません。

退職面談をやめる必要はありません。期待する範囲を正しく持つ、というだけの話です。

在職中は、もっと言われていない

「では在職中に聞けばいい」と考えると、次の壁があります。在職中のほうが、実は本音の量が少ないのです。

サーベイや面談で「すべて本音で答えている」社員は 10.8%。10人に1人です。まったく本音を出していない層が 34.3%、出し切っていない層まで含めると 57.4% になります。

理由は退職面談と同じ構造です。「言っても何も変わらない」が 35.0% で1位。そして改善の状況が共有されていると感じている社員は 25.9% しかいません。出した意見のその後が見えないから、次から出さなくなる。

さらに、本音が出ない職場では実害が数字に出ています。心理的安全性が低い層は、12か月以内の退職検討が約1.8倍(38.6% 対 21.6%)。SNS・口コミにネガティブな投稿をする意向は約3倍(45.5% 対 14.9%)です。

本音は、言われないだけで消えてはいません。社内で言われなければ、外に出るか、退職という形で出るだけです。

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「理由」ではなく「構造」で捉える

個別の退職理由を集めるだけでは、対症療法で終わります。重要なのは、原因(組織構造)→体験(EX)→状態(離職意向)という因果でとらえ、どこを直せば離職が減るかを特定すること。心理的安全性・上司との関係・成長実感・評価の納得感などの構造要因が、退職意向を左右します(参考:なぜ社員の本音は組織に届かないのか)。

辞める前に本音を拾う4ステップ

  1. 構造で診断する:退職理由でなく、離職につながる組織要因を特定する。
  2. 在職中に本音を拾う:匿名で安全な声の入口をつくり、兆候を早期に把握する。
  3. 優先度の高い課題から応答する:共感で可視化された課題に、経営が実際に動く。
  4. 変化を返し、実感をつくる:「言えば変わる」体験が定着意欲を高める。

構造を可視化する診断は EXギャップファインダー、若手の予兆対策は 若手の離職予兆・サイレント離職対策 をご覧ください。

集めた退職理由を、どう使うか

退職理由のデータには、使いどころと使えないところがあります。

使えるところは、傾向の変化です。半年前と比べて、特定の部署から同じ入口の理由が増えていないか。1件ずつの真偽を詰めるより、分布の動きを見るほうが有効です。

使えないところは、個別の因果です。「Aさんはキャリアアップと言っていたから、キャリア支援を強化しよう」という使い方は、建前を材料に打ち手を決めることになります。

そして退職理由は、必ず辞めた人のデータです。残っている人の状態は入っていません。いま静かに諦めている人が何人いるかは、退職理由からは見えない。ここが決定的な限界です。

在職者の声と組み合わせて初めて、退職理由は使えるデータになります。

こんな組織に向いています

  • 離職率が高い・改善が頭打ちになっている
  • 退職面談をしても本当の理由がつかめない
  • 施策を打っているが、離職の根本原因が分からない

あわせて読みたい

よくある質問(FAQ)

離職率を下げるには何から始めればよいですか?

退職理由の収集より、在職中に本音を拾える状態づくりからです。離職につながる組織要因を構造で特定し、優先度の高い課題に応答する。「言えば変わる」という実感が、定着意欲を高めます。

退職面談で本音が聞けないのはなぜですか?

すでに退職を決めた人は、円満退社のために建前を述べる傾向があります。本音を聞くタイミングとしては遅すぎるのです。離職率を下げるには、辞めると決まる前に拾う仕組みが必要です。

離職率が高い原因は何ですか?

給与や待遇は引き金になりますが、根本は「声が届かない」構造にあることが多いです。本音を出さない社員は34.3%、「言っても変わらない」が本音を控える最大の理由(35.0%)。心理的安全性が低い職場では退職意向が約1.8倍に高まります。

退職理由の本音と建前の違いは何ですか?

建前は会社に伝える理由、本音は実際の決め手です。建前には「引き止められにくい」「角が立たない」理由が選ばれます。辞める人にとって建前を言うほうが合理的なので、この食い違いは誠実さの問題ではありません。

よくある建前にはどんなものがありますか?

キャリアアップ、家庭の事情、体調、他社からの誘い、給与・条件の5つに集約されます。いずれも会社側が反論しにくい理由です。分類しても本音は出てこないので、どの入口から語られたかを知る以上の意味はありません。

退職面談で本音を引き出す方法はありますか?

質問設計の工夫で、業務プロセスや引き継ぎの課題は拾えます。拾いづらいのは人間関係・評価の納得感・将来の見通しで、辞める決め手はたいていここにあります。面談をやめる必要はありませんが、期待する範囲は正しく持ったほうがよいです。

第三者に退職面談を委託すれば本音は聞けますか?

聞き手が利害関係者でなくなる分、多少は改善します。ただし「もう辞める」という前提は変わらないため、引き止められたくない・円満に辞めたいという2つの動機はそのまま残ります。

退職理由ランキングは参考になりますか?

社内で話を始めるきっかけには使えますが、打ち手を決める材料にはなりません。よく引用されるものは調査年が古いことがあり(代表的なエン・ジャパンの調査でよく引かれるのは2022年版です)、全国平均の順位が自社の順位である保証もありません。順位は「言いやすさ」の順位でもあるため、上位に来ないことが少ないことを意味しません。

退職理由のデータはどう使えばよいですか?

傾向の変化を見るのに向いています。1件ずつの真偽を詰めるより、部署や時期による分布の動きのほうが役に立ちます。一方で退職理由は必ず辞めた人のデータなので、いま残っている人の状態は在職者の声から取る必要があります。

「辞める構造」から、変える

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